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椋の口からは、真琴が刺されてからの出来事が次々と語られていった。
沙希と二人で病院に来た時に発見できたこと。
そのまま手術をしたこと。
優奈が来て、その後沙希が全部話したこと。
手術は成功したが目覚めないかもしれないと言われたこと。
指示通りすぐに出丘を襲撃したこと。
厳しくもあったが何とか勝利を収めたこと出丘の記憶を消したこと。
などこの説明だけで軽く1時間ほど時間が経ってしまうほどだった。
真琴は一つ椋に聞いとかなければならないことがあった。
「でさ…アタシの刺された傷はどこに行ったの?さっきから傷痕すら見つからないんだけど…。」
椋が冷静に答える。
「フールの力を借りたんだよ。目的を一つ達したからね、そのご褒美というかなんというか…。真琴と俺の傷を治してもらったんだ。」
椋の口からあっさりととんでもない言葉が出てくる。
意識不明の人間を回復させるほどの治癒能力を持つ者なんて初めて聞いたからだ。
いや、そもそも《愚者》は規格外の何かなのだから、まだまだ色々な能力を持っているのかもしれない。
「で、そのフールちゃんは何処に?」
またあの小さくて可愛い《愚者》にだっき付きたい衝動に駆られていた真琴は周囲を探すが、小人は一向に見つからない。
「今は疲れて眠ってるよ。治癒能力は相当体力を消耗するらしくってね、あと3日は出てこれないって言ってた。」
苦笑いしながら真実を告げた椋。真琴から一瞬驚愕の表情が生まれたのは言うまでもない。
暗い病室の中、深夜に二人、何という好シチュエーションなんだろうと思うが、残念ながら先程まで二人は怪我人、一人に至っては、生死をかけた戦いを繰り広げたところだ。そんな展開になるわけがなかった。
「一応、フールが真琴を治癒したってことは沙希と優奈ちゃんには伝えてあるから、明日には二人ともここに来ると思うよ。」
椋が真琴に言う。彼女からも安堵の表情が漏れていた。
「本当に心配かけたわね…。ごめんね…。」
真琴の本音が出てしまう。自分から手伝うといったくせに、最終的に自分が襲われ、計画をおじゃんにしてしまいそうになったのだ。申し訳ないと思うにきまっている。
「謝らないでくれよ。結果オーライってやつさ。真琴は助かったし、出丘も倒せた。全部計画通りに進んだじゃないか!あれもこれも真琴が頑張ってくれたからなんだろ?むしろ感謝してるくらいだよ。」
彼の言葉に励まされつつ、真琴の心の中から少しだけだが、罪悪感のようなものが消えていった。




