20
2062年4月6日
目を開けるとそこは夜の暗さに包まれた静かな部屋だった。
真琴はいつも自分の病室とは違う部屋にいることにすぐさま気がついた。
少々混乱する記憶の中を探り始める。
時計を確認すると今日の日付と3時23分を表示している。
ハッとあることに気がつき、自分の下腹部に手をやる。
自分の記憶が正しければ、昨日病室に侵入してきた男が、何らかの能力で叫び声をあげることのできない状況を作り出し、そのまま下腹部を刃物で刺し逃げて行ったはずだ。
覚悟を決めていたことではあったが、本当に起こるとなると恐怖に押しつぶされそうになっていたのを覚えている。
しかしおかしい。刺された感覚は微妙に残っている。だが痛みはない。出血もない。それどころか傷口がないのだ。
何度感覚が残っている部分をさすっても、それは見当たらなかった。
真琴は何が何だかわからないといった感じであったが、改めて病室を見渡すとそんな事どうでもよくなった。
ベッドの左横で、最近知り合ったにもかかわらず、最も親しい男友達がイスに座りながらすやすやと寝ていた。
よくこの姿勢で睡眠をとることができるな、などと思いつつ、彼の方をじっと見つめる。
顔は軽く汚れ、服はぼろぼろだ。彼の恰好からして、それなりに怪我をしていると思ったのだが、彼も目立つどころかすり傷一つない。
あからさまに不自然な状況ではあるが、それが何を意味しているのかは察しがついた。
戦ってきたのだろう。
彼に負担をかけるのかもしれないが、何かと聞きたいことがあるため、真琴は体を起こし椋の肩を左手で揺らす。
2、3度揺らすと椋は重たそうな瞼をゆっくりとあけ、きょろきょろと首を振り周りを見渡す。
首を右に振ったところで、椋の視界に見覚えのある少女の顔がフレームインする。
少女が真琴だと認識した瞬間に、椋は真琴の左手をつかみ両手で包み込む。そのままうつむき、椋は言った。
「ごめん……でも良かった…。本当に良かった……。」
その言葉は、彼女にも重くのしかかる。
「そんな、謝らないでよ…。悪いのは私なんだからさ。」
苦笑いを浮かべながら真琴が椋に言った。
「で、結局勝利したのよね?」
彼女の確信は持っているが一応確認しとかないといけないという気持ちから出てきた言葉だった。
うつむいていた椋が顔を上げ、真琴にこれまでで最大の笑みと共に少量の涙を浮かべて、椋は真夜中に叫んだ。
「もちろん!」




