表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/414

19

 「それを使うなぁ!」

 突然の出来事でつい叫んでしまう。

 倒れていた出丘が目を覚ましたのか、右手で椋の足をつかんできた。異常なほどの握力で。

 ギリッと足に結構な痛みが襲いかかる。

 急いで『光輪の加護』を起動しなおし、最後の足の光輪を消費して出丘から逃れる。

 

 動けない相手に対して、少し警戒しすぎなのかもしれないが、だがさっきの言葉になぜか全身が震えてしまったのだ。

 「黙ってろ、下衆野郎!」

 「下衆は酷いな…せめて悪魔って呼んでくれよ…。」

 いつも通りの口調に戻った出丘が椋に言う。

 

 距離を置いているため、安心して出丘の能力を見ることができる。

 結晶からだんだんと水色の光が放たれ、椋の右手にだんだんと集まっていく。


 寝そべっている出丘にもその光は見えるのか、目を閉じあきらめたような顔をしている。

 

 集まった水色の光は30センチほどの大きさにまで凝縮され、あるおもちゃを形成していく。

 椋でもそれを見て、出丘を少々哀れんでしまうようなものだった。

 いや、見た目で判断してはいけないのかもしれない。もしかしたらものすごい力が隠されているのかもしれないのだ。

 ハンマーの形をした、柔らかく、物をたたく部分は赤く(手元にあるものは水色をしているが)たたけばピコピコ音を鳴らすあれだ。

 フールですら少々驚きの表情を浮かべている。

 「ピコハン…だと…。」

 思わず声に出してしまった。


 「やめろ…やめろ止めろヤメロ止めろ止めろ!」

 出丘が叫びをあげる。動かせない体を必死に動かし悶えている。

 その様子を見た椋が一度離れたにもかかわらず、再び出丘に向かい歩き出す。

 出丘の頭の前までたどり着くと、その場でしゃがみこみ出丘の頭をピコハンで攻撃をする。ピコハンに1と表示される。

 「別に何でもいいじゃないか…。能力なんてものはさ。」

 ピコピコと音を鳴らしながらその攻撃を続けた。

 「オマエはこんな能力とか思ってたのかもしれない。でもさ、それはきっとお前が望んで得た能力なんだろ?なんでもっと自信を持てないんだ…。」

 ピコピコピコピコとハンマーから音が鳴り続ける。数字は78を示していた。

 「オマエに…お前に何がわかる…。」

 出丘の顔にどんどんと涙に歪んでいく。

 「わかるよ…。似たようなもんだったさ。でもな、オマエがやったことは決して許されることじゃない。お前がどんな人生を歩んでいようと知ったこっちゃない、でも目的のために関係ない人に危害を加えるのは間違ってる。例え自分が直接手を下していなかったとしても、だ!」

 そういって何度もピコハンをたたき続けた。

 

 「教えてあげるよ。それは『勿忘槌』(コメット・ハンマー)数字が100に達すると、たたかれたものの記憶を1か月分完全に忘れさせる能力だよ。次にもう一度たたくまで、絶対に思い出せないという条件付きのね。」

 数字は出丘にも見えているのだろう。表示は99を示していた。


 先程のような開き直りではなく、吹っ切れたような感じだった。

 「僕は……僕は間違ってたのか…?」 

 「それを決めるのは俺じゃない。お前自身だ。これからどうにでもなるさ。」

 「まぁ、一か月前の僕はこの能力が嫌いだからね、おもいだすことはないさ。」

 自分を皮肉ったような言葉を発したのち、椋の最後の一撃を受け、出丘そのまま気絶した。

 それと同時に、水色のピコハンが再び光に戻り出丘の中に戻っていく。

 出丘の話が本当ならば、これまでの椋がかかわったすべての事件の記憶を失ったはずだ。

 《悪魔》についてはフールが対処済みらしい。


 とりあえず出丘をおぶって下までおろし、廃ビルの入り口付近にそっと寝かせる。

 痛む背中を意識しながらそのまま1時間近くかけて、再びあの病院に戻るのだった。

 

 

 

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ