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自由に動かすことのできない体で、いったん体勢を立て直そうとする、
手足の左右が逆になる。
まだそれだけでよかったと椋は思っていた。
これで、前後の動きや、腕の曲げ方それぞれがバラバラになったのなら、対処はできなかっただろう。
さらに頭は思い通りに動く。
しかしそれでも圧倒的に出丘の歩みの方が早い。
今椋に残っている光輪は両手には2つずつ、足は右が2左が1だ。
勝機が完全に断たれたわけではない。
椋には一つだけ実行可能かはわからないが作戦があった。
小林との戦闘ではできたのだ。ここでもできるかもしれない。
そう考えて、椋はフールに相談を持ちかけた。
〇~〇~〇~〇
椋は難なくフールからの了承を得ることに成功し、作戦を実行に移すことにした。
ゆっくりだが歩行には成功している中、ついに出丘が椋に追いついた。
左手をだらんと下げている出丘が、槌矛をゆっくりと持ち上げ、ゆっくり目に椋に振り下ろす。
槌矛が椋の背中に当たり、そのままその場に椋を沈めこませる。
「僕の勝ちみたいだね!何が訂正しろだよ。結局君もあのゴキブリと同じ低俗な奴だったんだねッ!」
そういってもう一度椋の背中をたたく。グゥと椋から衝撃を耐える苦しい声が出るが、
「黙れ!お前みたいに能力で誰かを従わせて群れるような奴に低俗呼ばわりされたくない!」
と出丘の言葉に必死に反抗する。
なぜかその言葉に動揺した出丘が死なない程度のスピードで一語一語の区切りに椋の背中をたたきながら、椋に語った。
「昔々、あるところに、一人の希望に、満ち溢れた、少年がいました!中学校という、舞台で新しい。生活が待っている、それが少年に、感動を与えていたんだ!」
だんだん出丘が力んできたせいか、槌矛からの衝撃が小さくなる。それでも切り傷は消えないが。
「しかし、少年の、希望は、絶望に変わった!君と同じだよ…。」
ここまで言うと出丘の腕の動きが止まった。
「少年のナチュラルスキルはあまりにも実用的と言えるものではなかった。それゆえのイジメさ。」
もうろうとする意識の中、椋はイジメという言葉につい反応してしまう。
「少年は激怒していたさ、いじめてくる相手にも、情けない自分にも……そして転機が訪れた。少年の中に《悪魔》が宿ったんだ。少年はすぐにその能力を使い学校で一番強い奴を倒した。あまりにも簡単で笑いがこらえられなかったよ!」
出丘の声音に喜びの感情は含まれていなかった。あるのはただ虚しそうな、悲しい響きだけだった。




