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そのまま出丘の背後に跳躍すると、そのまま右手の『光輪の加護』を使用し出丘の足元を思い切り殴る。
静かな夜の街に結構大きな音が響く。
二人の足元に椋がその右手を中心に大きなクレーターを穿った。
仕掛けた椋は体制を保っていられるが、仕掛けられた出丘はとっさに対応できるわけもなく、そのまま姿勢を崩し、滑り入るように穴に落ちていった。
「次そのふざけた口たたくとその喉握り潰すぞ!」
ここまでキレたのは初めてだ。ここまで汚い脅しの言葉を吐くのも初めてだった。
クレーターの中で出丘が素早く立ち上がり、自分の服の汚れを確認し、払っても無駄だと確認すると、椋と距離を開けるように後ろに少しだけ飛び言う。
「早いね…。さっきもそれで僕をここに連れてきたのかい?」
椋の返答など待つ気がないかのようにに続ける。
「それにしても柊さん?彼女もバカだよね。ゴキブリみたいにちょろちょろと僕のこと調べまわって、最終的に潰されたんだからさぁ!」
まるでわざと椋を挑発するかのように。
暫くそ暗い夜の星と月に照らされた戦場に静寂が訪れる。
もちろんそれを破ったのは椋だった。
「出丘ァァァ!!」
叫ぶ。喉が裂けそうなほどに。
両者の間にある大穴を飛び越えるように一歩大きく踏み込もうとする。
それと同時に出丘の口が何かを呟いた。
それを確認する前に再び出丘の後ろに回り込み、大きく左手を構える。
しかしそれが出丘に届くことはなかった。
何かが椋の右側頭部にクリーンヒットしそのまま体が左に大きく飛ばされる。
2回ほどバウンドし、パラペットの手前で何とか止まる。
左手の能力の発動は決定事項だったため、光輪が一つ消滅する。
何があったかが理解できないまま、すっと起き上がり素早く出丘の方を向き直る。
「『理解不能の蛇槌』。僕の《悪魔》がくれたもう一つの力だよ。」
出丘の手には大きな槌矛が握られている。出丘が少しニヤッとしながら言う。
柄頭には1匹の尾を飲み込む黒蛇の装飾、赤褐色の柄には大きな黒蛇が柄頭に向かい巻き付いている。
「それにしても、辻井君って思ったよりもバカだね!こっちに跳んでくるってわかってるんだから適当に振っても当たっちゃうよ。自分からあたりに来てくれるなんてほんと間抜けだよねぇ!」
出丘が笑い声と共に叫びに近い声を上げていた。




