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これこそまさに一瞬だった。出丘自身声を上げる暇すらなかったよだ。
椋は右手で拳を作り、そのままそれを出丘のみぞおちに叩き込む。
素晴らしい反応速度と言おうか、飛んできていた拳を出丘は自分の両手で的確に受け止めている。
しかし椋の勢いまでは止められず、そのままの姿勢で跳躍は続く。
出丘を引きずったまま、『光輪の加護』の効果を使う。座標の再設定、そして空中への座標指定が可能になった、この前の『確認の間』での戦いでギアが上がったものだ。
一度大きく暗い空を見上げ、その中にある頂点がほのかに輝いている鉄塔を目的地に変更する。
この暗闇の中で、出丘の自宅から最も遠く、そして最も高い場所だ。
椋は右足の1つしか光輪を消費せずにそのまま出丘ごと空中に跳躍した。
さすがに目的地が遠すぎて一瞬とはいかないが5秒ほどで鉄塔の付近まで到達する。
唐突すぎる出来事に出丘は戸惑っているようだった。というよりも今は下腹部めがけて飛んできていた拳を抑えるのに必死になっている、といった様子だった。
位置を微調整し右足で鉄塔に着地し、そのまま左足でもう一歩踏み込む。
左足に輝いていた4つの光輪が1つ儚く消え、3つになる。
鉄塔からの跳躍での目的地の座標はそこからギリギリ見ることができる、ビルの屋上で輝く照明に指定した。
真琴が椋の案を聞き事前にセッティングしてくれていたものだ。目印があれば暗闇でも何の問題もない。
そのまま二人は瞬時に鉄塔から姿を消し、とある廃ビルまで跳躍する。
そう、約一か月前に椋が死に場所として選んだ、屋上からの夜景が美しい、あの廃ビルだ。
もう何年も前につぶれ、今となっては誰も近寄らない、なおかつそれなりの高さがあるため、叫んでも声が下まで届くかわからない。最初は迷ったが、最終的にはここが一番いい場所なんではないかと思い、この廃ビルを選んだのだ。
やっとここまで来たのだ。復讐と言われても仕方がないかもしれない。
屋上のパラペットに足がついた瞬間に椋は覚悟を決めた。
(ここで始まり、ここで終わらせる。二人のためにも!)




