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彼女の枕元にあったナースコールを押し込み、センターに通報する。
3コールほどで女性の少し高い声がスピーカーから鳴る。
『こちら4階ナースセンターです。どうかなさいましたか?』
ナースの落ち着いた声とは正反対な声で椋が受話器に向かい叫ぶ。
「いいから早く来てくれ!真琴が…真琴が…!」
シーツにしみ込んだ赤が、ついに床に滴る。
彼女の顔色もどんどん悪くなっていくような気がする。
これだけの出血、無事なわけがない。
『落ち着いてください…どうなさったんですか!?』
焦りの気が一切ないナースの声に、椋の焦りは怒りに代わっていった。
「良いから早く来い!」
そうだけ言って受話器を床に放り投げ、真琴の肩をゆさゆさ揺らす。
「なんで……真琴…まこと…。」
2分と掛からずに医師達が到着した。
椋の声から緊急事態と判断したのか、それなりの人数だった。
一番初めに入ってきた看護士がベッドの上の真琴を見て思わず悲鳴を上げた。
「どいてください!急いで!」
悲鳴を聞いたほかの面々が急いで病室に突入してくる。
椋と沙希を押しのけて、真琴を囲む。
医師は彼女をストレッチャーに移し、素早く彼女を病室から移送する。
「手術室は空いてるか?緊急オペだ!」
閑散とした病室に取り残された二人。
椋はベッドの横にしたたり落ちた真琴の血を見て立ち尽くし、沙希はその横で泣きじゃくっていた。
真琴の病室に来てからまだ5分と経っていない。椋達には現状が理解できなかった。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。立ち尽くした二人の前に血相を変えた優奈が飛び込んできた。
床に落ちた紅の血が優奈の顔色をさらに悪くする。
「お姉ちゃんが…おねえちゃんがぁ…」
優奈がわなわなとひざを落とす。
そのまま彼女の眼から大粒の涙が零れ落ちていった。
扉の上には赤いランプがともっている。
3人は手術室の前のイスに座り、必死に真琴の無事を祈る事しかできなかった。
あれからそれなりに時間がたっているはずなのに一向にランプは消えない。
時間の経過と比例して、彼女への心配は増えるばかりである。
時計の表示が15時になった。
それと同時に椋のポケットで携帯のバイブが振動する。
(こんな時に誰がっ!)
そう思いながらも携帯に表示された、相手の名前が表示される。
自分の携帯アドレスを知っている人間なんて指で数えることのできる人数だ。ここにそのうちの2人がいて、もうひとりは今もこの硬い扉の向こうにいるのだ。
(ひいら・・・ぎ、ま・・・こと?)
なんでこんな時に彼女からメールが来るのか、心の底から驚きながらも、メールを確認する。
時間指定で送信された真琴本人からのものだ。
件名にはこう書いてあった。
【このメールを読む椋へ。】




