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「びょ…病室間違えてませんか……?」
突然目の前にサングラスとマスクを装着したあからさまな不審者が登場したわけだが、そんなときの対応は学校じゃ教えてくれない。
とりあえず様子を見ようとして出た言葉がこれだった。
もちろんその後すぐに自称変装セットを解除し、沙希がその素顔をあらわにし、発言の意味を問いただされた。
少し険悪な雰囲気が流れる。
途中の会話は聞いておらず、最後の椋の発言だけ聞かれてしまったわけだが、誤魔化そうとするも、いつもとは違う不自然な対応が裏目に出たか、隠し通せるわけもなく、すべて自供することになってしまった。
「ここ最近おかしいと思ってたのよ、なんかそっけないというか、微妙に避けてるというか、それでなんか隠してるなーって思って後をつけてみたらこれだよ。」
沙希の口から呆れ50寂しさ40怒り10くらいの言葉が出てくる。
真琴には協力してもらっている立場だし、ここは素直に椋が謝る。
「ごめん…。でも巻き込みたくなかったんだよ。前の時みたいになったらって思うとどうしてもね…。」
彼女が倉庫での事件で心に深い傷を負ったのは確かだろう。
出丘とは1対1で戦うつもりだが、もしも取り巻きがいたら、もしそいつらが沙希に危害を加えたら、もし……とよからぬ想像しかできなくなってしまっている。
しかし先程の言葉で、口下手な椋の伝えたいことは何となくわかったようで、沙希が一度だけ大きく頷く。
「わかった。戦うのを止めたりはしない。でもね、手伝い位はさせてほしいの。言っちゃなんだけど椋よりも頭はいいんだからね!」
沙希の発言に、3人から自然と笑みがこぼれ、先程までの険悪なムードはどこか遠くへ飛んで行ってしまった。
再び3人と1匹?は黒いテーブルセットに座り、沙希も交えた作戦会議を始めることとなった。
沙希のおかげで少し変更された部分もあり、ほとんど改変の余地がないくらいの完璧な作戦ができ、あとは真琴が出丘の行動を観察し、作戦の微調整を加えることになった。
椋の足が治るまではとりあえず待機となり、今日は沙希と二人で帰宅する。
日も暮れ少し暗くなってきた歩道を二人並び歩く。沙希は松葉づえを突く椋に歩調を合わせ、二人はこの時間を楽しむ。
二人にとって普通だったこの時間は、ここ半月何かとあり、久しぶりに感じる。
混雑する駅のホームを抜け、ようやく自宅の近くまで到着する。わき腹に地味な痛みを感じながらも、近くの公園のベンチで二人すわり少し話をする。
やけに街灯が少ないこの公園は、デートスポットとして有名である。
そのためか周囲にはまだ多少人が残っている。これから何をするかは言うまでもないのだろうが、時間が時間なのでまだはじめないだろうと思いここにしたのだ。
「椋はさ、私が出丘と戦うって言ったら止める?」
沙希の突然の発言に少々驚いてしまうが、そこは迷わずに即答する。
「止めるに決まってる。」
「そうだよね…でもね椋、何でも一人で解決しようとしないで…私はここにいるの。こんなに近くにいるんだよ?今日だってそうじゃない。私を頼ってよ…。」
沙希が椋の両手を柔らかい手でそっと包み込む。
「……………………。」
言葉が詰まって出てこない。彼女から向けられる真剣なまなざしに、どうやって答えたらいいのかがわからないのだ。
暗くてはっきりはしないが、彼女の目から頬にかけて、水滴のこぼれた跡があった気がした。




