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『犯行現場には4人の大人、お前たち二人は決して軽いとは言えない拷問を受けていた。初めは我の関与するところではないと思いその場を去ろうとした。しかしそこで見た。囚われの少女が紅に輝き、能力を使い自分が使われた拷問具を模した道具を次々と大人に装備していくのを。』
(『激痛の拷問具』…?)
『そうだ。少女は必死に抗った。暴行を受けてぼろぼろの体に鞭を打ちながら。しかしその行為にはあまり意味がなかった。まだ少女は幼すぎたのだ。能力を使いこなすことができなければ怖いことはない。大人たちの反撃はそれは酷いものだった。』
(そんな……)
そんな記憶は一切といっていいほど椋には残っていない。沙希からもそんな話を聞いた記憶がない。
『先程も言ったな?能力が覚醒する前の子どもを売買すると。しかし少女には能力が目覚めてしまった。その時点で少女に商売道具としての価値がなくなってしまったのだ。そこにいた大人たちに少女の能力のすごさはいまいちわかっていなかったようで、少女を処分する方向で話は進んだ。』
(まぁ、今沙希は生きてるんだからだいじょうぶなんだろうけど…)
『少女の眉間に拳銃が付きつけられ処刑が執行される寸前にもう一人の少年は叫んだ。それと同時にさらに驚くべきことが起きた。少年が先程まで少女が行使していた能力と同じ拷問具を現出させる能力を行使したのだ。』
思ったよりも椋は冷静に話を聞くことができた。
(それが、俺の能力なのか?)
『『愚かな捕食者』。周囲のエネルギー体を吸い込み、それに含まれている情報からそれを一時的に自分の能力として使うことができる能力。それがお前の本来の能力だった。』
(『愚かな…捕食者』?じゃぁなんでそれは今の俺にないんだ?)
『話を最後まで聞けと言っているだろう。少年は、少女の能力を行使し、大人たちを倒そうとした。だがたかが4、5歳の少年にそんな体それた能力を扱いきれるわけがなかったのだ。』
(じゃぁ、その後どうなったんだ?)
『ここでようやく我が関与してくる。我は少年の能力の影響を受け、少年に吸い込まれてしまった。とても人の心の中とは思えない空間だった。渦巻くのは憎悪と自責の念ばかり、少年はその幼さにして絶望という言葉を理解していた。そして我は少年に協力を申し出た。力を貸すと、その代わりオマエの体を憑代とすると。少年は半分以上理解できていないようだったが、その申し出に賛同した。』
(それが俺と君との初めての接触…)
『オマエが小林との戦闘の時、我の名と、『光輪の加護』を知っていただろう。それはその時に我がオマエに教えていたからだ。』
《愚者》の口から次々と真実が明かされていく。椋にはただその言葉を理解し、受け止めることしかできない。
『少年はその力を使い大人たちを倒し、そのまま力の暴走により力尽きた。我は何とか少年を救おうとした。これ以上に我と適性のある人間なんて他にはいないと感じたからな。再び能力を暴走させないためにも、少年が身体的、精神的に成長するときまで、天然結晶を封印、そして脳内のエネルギーを生産する機能を完全に止めた。オマエが能力を使えなかったのはそのせいだ。』
(そんなことが……。)
『そして最後に、お前たち二人のその事件に関する記憶を消し、最後の力で二人の怪我の治癒を行いそのまま一時的に消滅した。時が過ぎ、再び現世に戻った時にはオマエがその身を投げようとしていて少々戸惑ったがな。』
(は……ハハッ…そんなことも…あったかな…)
《愚者》は語り終えたといった様子で、話を締める。
『これが我が知っている限りのすべてだ。』




