覚醒の形5~語られる真実~ 1
2062年3月26日
いつもと同じ、気怠い朝がやってくる。
昨日はあの後、怪我した足をかばいながら自分の足で目の前の病院に赴き、とりあえず検査入院をすることになった。
足の方は骨にひびが入る程度で済んだようで、安静にしていれば完治までそう時間がかからないだろうとのことだった。
今月で既に3回も病院にきている。もうすっかり顔なじみな気がするが決して自慢できることでも誇れることでもない。
昨日の自分との戦いというもう経験できないであろう出来事を何度も頭で思い浮かべつつ、純白のベットに寝そべりながら考え事をする。
昨日のことをすべて鮮明に覚えている。《愚者》の言葉も、だ。
あの試合中にだけで聞きたいことがいくつかあった。
(なぁ…フール…聞こえるかい?)
『何か用か?』
《愚者》からの返事はすぐに返ってくる。
(正直に答えてほしい。あの試合中に君は言ったよね?「あれはオマエ本来の能力だ」って。説明してほしいんだ!いったいどういう事なんだい?)
《愚者》に詰め寄るように問う。先程より返事が遅かったような気はする。
『長くなるが構わないか?』
(うん、大丈夫だよ…。)
『そもそもの話をしよう。我が初めてオマエを見出したのは約10年ほど前の話だ。その日は二人の子どもの天然結晶とやらの能力が開花した日でもあった。椋、オマエと七瀬沙希の二人だ。我は惹かれるようにその二人のもとに向かった。そこで見たのは酷いとしか言いようがないものだった。当時天然結晶の能力がまだ開花していない状態の子どもを拉致し、海外に高値で売り飛ばすという犯罪が流行っていてな、それの被害者としてお前たち二人はあるグループに拉致されていた。』
(待って……俺にそんな記憶がないんだが…。)
脳内をいくら漁っても出てこない記憶。正直信じられないというのが本心だった。
『最後まで話を聞いてから言え。』
(あ…あぁ、ごめん。)
《愚者》の冷静な対処に椋は悟る。この話の先になぜ記憶がないのかも含まれているのだ。
ここからはおとなしく、《愚者》の話を聞くことにする。
そして《愚者》は語る。《愚者》が初めて椋に接触した日のことを。




