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13

 うつ伏せの椋の周りから、金色の光があふれる。そう、吸い寄せられるように。


 もう一人の椋は異変に気が付き、歩調を早め、最終的には右足の最後の光輪を使い、左手で拳を作り決着をつけようとする。


 その金色の光が、すべて椋の胸元の指輪へと吸い込まれ、そのまま四肢に分散していく。人の血液の循環のように、自然と、かつ高速で。

 

 深く穿たれた穴にもう一人の椋がその左拳を振り下ろす。

 

 強烈な音と共に反応して沙希が悲鳴を上げ、アイマスクを取り、椋の方を向く。

 

 穴からはじき出されたのは、もう一人の椋の方だった。

 もうその体には鈍く光る光輪は残っておらず、背中を床に叩き付けられ、少々苦しんでいる。

 

 「椋!」

 たとえ穴からはじき出されたのがもう一人の方だとしても、本物の方が無事とは限らない。

 あれほどの爆音を上げながら無事でいられるわけがない。そう思っての叫びだった。

 

 その言葉に反応するかのように、沙希の目の前にスッと椋が現れる。穴までの距離はかなりあるので普通に移動したわけではない。

 彼の四肢には再び金色の輪が輝いている。左足には二つ、それ以外には3つずつの彼の能力『光輪の加護』だろう。


 しかしこの前見た時とは形状が違う。この前までは、普通の輪だったのが今は二重の円を直線で貫いたような、そんな形をしていた。

 彼は声を発しない。ただ一度頷く、それだけで沙希は椋が何を言いたいのか理解した。

 

 『安心して。勝ってくるから。』


 椋は右足を引きずるように一歩踏み込み、沙希の目の前から消える。

 何の根拠もないその言葉にはなぜか説得力があった。

 


 もう一人の自分の目の前に跳躍した椋は、その勢いのままに相手の腹に右手で殴りこむ。

 今度は真上に突き上げられるもう一人の椋。

 その腹には、先ほどまで椋の右手についていた金色の光輪が残されている。

 その光輪がロケットのようにもう一度相手を突き上げ、さらに高度を上げる。

 

 椋は左足だけで軽くひょんと飛ぶ。

 そしてその場から消える。これまでとは違う空中への跳躍だ。

 もう一人の自分の胸元に飛び込み、もう一人の自分に向かいつぶやく。

 「ありがとう。」

 なぜ感謝を口にしたのかはわからない。

 でもきっと感謝しなければならない、なんとなくそう思ったのだ。


 両手で交互に5発のパンチを相手に叩き込む。

 更なる高高度に滞空するもう一人の椋の腹には今度は5つの光輪が輝いている。

 いつも以上に荒らげた声で叫ぶ。

 「はじけろぉぉ!」

 光輪が5回に分かれもう一人の椋の腹を突き上げていく。

 4回目に天井に到達し、5回目で天空の膜を押し上げる。

 膜の反発によりそのまま勢いよく地面に叩き付けられ、そのまま消滅し、その後椋も着地する。

 

 「そこまで!試合終了です、合格おめでとうございます。」

 その和田の言葉を聞くと自然と力が抜け、全身が脱力感に包まれた。

 

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