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うつ伏せの椋の周りから、金色の光があふれる。そう、吸い寄せられるように。
もう一人の椋は異変に気が付き、歩調を早め、最終的には右足の最後の光輪を使い、左手で拳を作り決着をつけようとする。
その金色の光が、すべて椋の胸元の指輪へと吸い込まれ、そのまま四肢に分散していく。人の血液の循環のように、自然と、かつ高速で。
深く穿たれた穴にもう一人の椋がその左拳を振り下ろす。
強烈な音と共に反応して沙希が悲鳴を上げ、アイマスクを取り、椋の方を向く。
穴からはじき出されたのは、もう一人の椋の方だった。
もうその体には鈍く光る光輪は残っておらず、背中を床に叩き付けられ、少々苦しんでいる。
「椋!」
たとえ穴からはじき出されたのがもう一人の方だとしても、本物の方が無事とは限らない。
あれほどの爆音を上げながら無事でいられるわけがない。そう思っての叫びだった。
その言葉に反応するかのように、沙希の目の前にスッと椋が現れる。穴までの距離はかなりあるので普通に移動したわけではない。
彼の四肢には再び金色の輪が輝いている。左足には二つ、それ以外には3つずつの彼の能力『光輪の加護』だろう。
しかしこの前見た時とは形状が違う。この前までは、普通の輪だったのが今は二重の円を直線で貫いたような、そんな形をしていた。
彼は声を発しない。ただ一度頷く、それだけで沙希は椋が何を言いたいのか理解した。
『安心して。勝ってくるから。』
椋は右足を引きずるように一歩踏み込み、沙希の目の前から消える。
何の根拠もないその言葉にはなぜか説得力があった。
もう一人の自分の目の前に跳躍した椋は、その勢いのままに相手の腹に右手で殴りこむ。
今度は真上に突き上げられるもう一人の椋。
その腹には、先ほどまで椋の右手についていた金色の光輪が残されている。
その光輪がロケットのようにもう一度相手を突き上げ、さらに高度を上げる。
椋は左足だけで軽くひょんと飛ぶ。
そしてその場から消える。これまでとは違う空中への跳躍だ。
もう一人の自分の胸元に飛び込み、もう一人の自分に向かいつぶやく。
「ありがとう。」
なぜ感謝を口にしたのかはわからない。
でもきっと感謝しなければならない、なんとなくそう思ったのだ。
両手で交互に5発のパンチを相手に叩き込む。
更なる高高度に滞空するもう一人の椋の腹には今度は5つの光輪が輝いている。
いつも以上に荒らげた声で叫ぶ。
「はじけろぉぉ!」
光輪が5回に分かれもう一人の椋の腹を突き上げていく。
4回目に天井に到達し、5回目で天空の膜を押し上げる。
膜の反発によりそのまま勢いよく地面に叩き付けられ、そのまま消滅し、その後椋も着地する。
「そこまで!試合終了です、合格おめでとうございます。」
その和田の言葉を聞くと自然と力が抜け、全身が脱力感に包まれた。




