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椋は高速での移動中に相手の光輪の数を確認する。
両手に2つずつ、両足に1つずつ残っている。確実にこちらより速いペースで消費してはいるが、一回の使用がかなり適切なタイミングで行われているため、こちらより有利に戦いを進めているのは確かだろう。
現にこちらは今にも倒れそう、相手に与えたダメージといえば一度左足で蹴り飛ばしたくらいだ。
あんな軽い蹴りではほとんどダメージを与えていないのと同じだろう。
もう一人の自分の正面ではなく、少し斜めの座標に跳躍し注意をひきつけ、今度は左足の最後の光輪を使って相手の真後ろに跳び、左手でわき腹、右手で頭部を狙い、能力を発動させ拳をくいこませようとする。
さすがに相手も反応しきれないかった様で、どちらか一つしかよけきれないと判断したのか、もう一人の椋は頭部めがけて飛んでくる拳に自分の右手の拳をぶつけ、自身も光輪を消費することにより威力を相殺させる。
しかし、もう一方の攻撃は防ぎきれなかったようで、もう一人の椋の体がくの字に折れ曲がり、放物線を描きながら、空中に舞う。
追撃をかけるように、右足の最後の光輪を使い、もう一人の自分の着地予想地点に跳躍し、右手で拳を構える。
(これで…俺の勝ちだ…!)
勝利を確信した瞬間、つい気が緩んでしまった。
重力に従い落ちてくるもう一人の自分が、こちらに向かって両手を振りかざしている。
直感的に間に合わない感じた椋は右拳を相手の左拳にぶつけることにより、威力を相殺させる。
しかし、残った右の拳が椋の右足のふとももを容赦なく抉った。
先程自分がやった事と同じ方法で反撃されてしまうが、それを意識できないほどの激痛が椋を襲っていた。
軽くても脱臼、酷ければ骨折といったところだろうか。とりあえず足に力が入らない。
これは椋にとっては絶望的な状況だった。
自分は足側の光輪を使い切っているため、右足を使えない。
これはほとんど移動手段を封じられたようなものだ。残っている光輪は両手に1つずつだが、移動できない中どうやって攻撃をあてろというのか。
移動手段が封じられたという事は、回避手段を奪われたのと同じこと。相手には、左手、両足に一つずつ光輪が残っている。
(負け…るのか…?)
このままだと、相手が足側の光輪を使い椋の後ろに回り込んだ時点でチェックメイトだ。
(勝ちたい…!)
真剣にそう思った。




