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七瀬沙希は自分の能力が嫌いだ。
正直悪趣味な能力と思っている。
彼女の『激痛の拷問具』は現出系特殊拡張と呼ばれる珍しい能力である。
様々な拷問具を強制的に相手に装着させることができる。
自分が形状と使い方を知っているならば、どんな拷問具でも現出させることができる。
そしてこの能力の最大の特徴は、激痛を永遠に抜け出せない快楽に変えることができるという事だ。
どちらにしても相手は傷ついていくというのに。
沙希はこの能力を極力使おうとしない。使えば人を傷つけてしまうからだ。
どちらかといえば穏やかな方の沙希にとってこの能力は、悪く言えば忌むべき存在なのだ。
「そ…そこまで。試験終了です。合格…おめでとうございます。」
和田の声には、少々恐れの感情が含まれていた。
(沙希が…『鉄の処女』を使った…。)
椋は必至に考える。
『鉄の処女』は彼女が使える拷問具の中で一番嫌いなものだ。
本当に悪趣味な道具なうえに、命中精度が異常なほど悪い。
ほとんど不意打ちでなければ当たらない必殺技だ。
なぜ彼女がそんなに勝利に急いだのかが椋には理解できなかった。
契と同じく、扉があくと同時に見せた驚愕の声音。
それと関係があるのか。やはり考えても答えは出ない。
「目隠しをはずしていただいて構いませんよ。」
という和田の声が聞こえたため、アイマスクをはずし視界を確保する。
ここで椋は不自然な点に気が付く。
血が一滴もこぼれていないのだ。
彼女が『鉄の処女』を人間に使えば血まみれじゃすまないレベルの血が流れるはずだ。
それにそもそも『鉄の処女』にかけられた人が倒れていない。
先程と同じく扉の音はしなかった。
こちらに向かって歩いてくる沙希の顔には怒りが見られた。
(いったい何があったんだ?なんて聞きたいとこだけど、たぶん不正行為に入るんだろうな…。)
と思い、好奇心を沈め、暫く待つ。
どちらにせよ次の試合で分かることだ。
「では、辻井椋君。試験を開始します。ほかの二人は目隠しをお願いします。」
椋が沙希にアイマスクを手渡し、『確認の間』の中央に向かおうとする。
するとそれを止めるかのように、沙希が椋の右手を握りしめ、ギュッと力を込めてくる。
「頑張って…。」
それだけ言うと、沙希の手がするっと離れる。
中央に到着すると同時に、向かい側の両開きの扉が重たい音を出しながらゆっくりと開く。
中から出てきたのはなんだか見覚えがある少年だった。
うつむいているためしっかりと顔を確認できない。
彼は、今現在椋が着ている、中学校の制服と同じ制服を身に着けている。
身長も同じくらいだろうか。
髪の色と髪型までも同じだ。
「これって………俺…か?」
そんな発言を無視するかのように
「では、始めてください。」
という、和田の宣言。
それと同時に、もう一人の椋がこちらに襲いかかってきた。




