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「朱雀寮、正の《審判》坂本真也、負の《隠者》洲宮長栖、負の《戦車》榎田康介他3名入室します」
朱雀寮には三人いたのか……。と思いつつ先頭にたつ3人の《エレメントホルダー》をみる。
一人は身長が高く金の短い髪をもつ男。先ほど声を発したのはこの男だ。名前は坂本といったか。圧力で理解できる。この人は強い。雁金さんや校長には及ばないものの、まるでどこかから獲物として狙われているような、研ぎ澄まされた圧力を感じる。
坂本と言う名に聞き覚えがあるのは乙姫のせいに違いない。お礼をいい忘れているが、明日にでも行かなければ
(同姓か……)
等と思考を張り巡らせつつ、視線を右に向ける。
あまり健康そうには見えない、猫背の男。ボサボサの黒髪からは若干ながら不潔ささえ感じる。
彼が負の《隠者》だろうか?
不思議なことに彼からは存在感を感じることができない。その場に存在しているはずなのに、まるで空気のように意識を向けることができないのだ。
次の負の《戦車》であろう男は見た目で言えば懋ににているかもしれない。細い眉毛に、リブレットが三つ、鼻中隔に通った細いセプタム。なんというか、チャラいと言えばそうなのだが、懋とは違う、好戦的な雰囲気を醸し出している。
少し肩でもぶつければ殴ってきそう。そんなイメージをもってしまい、条件反射的に思わず縮み混んでしまう。
当然のようにとりまきが存在する。
確か3人と言っていたような気がするが、入ってきた集団の人数は間違いなく五人だ。教師であろう女が一人と男子生徒が一人だ。
「もう一人は……?」
と、椋が思わず声にだしてしまう。
しまった!!!
と思うまもなく、顔面ピアスが叫びをあげた。
「オイ!!黄色いの!!誰に許可得て発声してんだぁ??」
見た目通りと言うか予想通りというか、短気そうなのは見た目で判断できてしまったが、その予想以上の短気さに更に縮み上がってしまう。
(声出すのも許されないのかよぉぉぉ……)
等と思っているだけでは、彼の勢いを止めることはできないだろう。
ヅカヅカと大きな足音でこちらに近づいてくる。
むなぐらでも捕まれそうな勢いでばしてくる手。隣の釉上は席の下に潜り込み、震え上がっている。沙希は臨戦態勢に入り、警告を意味する殺気を放っている。
勢いよく振られる拳に反応し思わず目を閉じてしまう。しかし、その手が椋に触れることはなかった。
「その人に手を出すことは許しません」
聞き覚えがある声に反応し目を見開く。目の前に存在するのは赤い礫のようなもの。いや、違う。熱感を持った小さな物体は生物だ。
「ブ、ブッシュ?」
目の前にいる生物は赤い鶯だ。炎をまとい必死に椋を守護している。
「乙姫か?」
そう。この召喚系能力の持ち主を椋はしっている。
朱雀寮の生徒で唯一コネクションを持っている女性。坂本乙姫だ。
しかし、迂闊に発言してしまったのは椋の失敗だ。どうせすぐにーーーーーーー
「お嬢のこと呼び捨てにしてんじゃねぇ!!!」
何て叫び声が飛んでくるに決まっているではないか……。
だが、そんな怒り狂う男の勢いも乙姫の一声で止まる。
「……康介さん」
「はいっ!」
「もう一度だけ言います。その人に手を出すことは私が許しません」
「はいっ!」
先程までの榎田康介の勢いはどうしたのだろうか?
そう思うほどに乙姫に従順な榎田の姿を見て心の中ですこし笑いが吹き出してしまう。
ケッ!
と声を出し、乙姫を含めた五人のもとに帰っていく榎田。
改めて6人を見やる。約二ヶ月前の凄惨な戦闘の傷などなかったかのように元気な坂本乙姫。治りが早いのは自分の相棒の鶯のお陰だろう。彼女は意識せずともそうなってしまうとも言っていた。
「うちの生徒がご迷惑をおかけしました……。椋さんお怪我は無いですか?」
「ああ、大丈夫」
彼女の心配そうな瞳を見て、しっかりと返事をする。
長い銀髪を揺らし、頭を下げる乙姫に「いいって!」と頭をあげるように促す。
「お前が辻井椋か」
割り込むように声を発したのは、入室時に全員の紹介をした男、坂本真也だ。
正の《審判》のホルダーだったか。
その情報よりも、乙姫と同姓だと言うことにしか頭がいっていなかったために、すこし記憶をさかのぼった。
高身長な男は、歩いて椋の前まで移動する。
また何かされるんじゃないだろうか?
若干の恐怖を覚えつつ、行動をまつ。実際そのあとに行われた行動の意味を椋は理解することができず、戸惑ってしまう。
坂本は椋の目の前で、思い切り頭をさげたのだ。言葉をひとつ添えて。
「入寮祭の時に妹を助けてくれてありがとう。朱雀寮総代表として、乙姫の兄として心から感謝する」
「へっ?」
間抜けな声と共にさまざまな情報が椋の脳裏を巡った。
思考がひとまとまりにならないなか、とりあえず何か話さねばならないと思い言葉を捻り出す。
「どういうことなんや……?」




