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 同日 時 午後1時 所 職員塔 会議室


確か入り口には会議室と表示されていたはずなのだが、そんな様子を一切見せない、ただただ広さを感じる部屋に皆はいた。


 一般生徒は基本的に立ち寄ることのない職員塔上部。椋、沙希、真琴、懋、契の五名は今日一日中ずっとこの塔にいるわけだが、先程まで七人と二人(?)だった面子が今一人増えようとしている。


 『私が確認しただけでもこの学園に9人はいるよ。麒麟寮には私と君あともう1人、1年生の釉上野花(ユウガミノバナ)っていう正の《節制》の子もいる。朱雀の総代表もそう、あの寮は1人ね。蒼龍に2人。玄武には1人もいなくて白虎に2人いるかな…。』


 入学した当初、各寮対抗試合の初日が終了した際、『麒麟第一寮』の屋根の上で物思いにふけっている椋に話しかけた女性が発した言葉だ。

 

 「おっすー。久しぶりだねぇ辻井君!」

 

 そう言って勢いよくこの部屋のドアを開けたのは、綺麗な金髪癖っ毛お姉さん。『麒麟第一寮』所属の三年生大宮亜実(おおみやつぐみ)だ。

 彼女は負の《月》の《エレメントホルダー》。いつぞやから少々お世話になっている人だ。七罪結晶の一件にも若干ながら足を突っ込んでいるといってもいい。


 ――――《エレメントホルダー》は他の《エレメントホルダー》を認知することができる


 この特性のせいもあってか、自分の替え玉を麒麟寮に置き、蒼龍寮で《暴食》を捜索していた時、一度『麒麟第一寮』に帰寮した際、彼女に即効で替え玉がバレたという過去もあり、事情を話したのだ。


 「お久しぶりです先輩」


 冷静に返事を返すと、彼女は不思議そうに、顎のあたりを人差し指でつつきながら、その部屋にいるひとりの人間を観察する。


 「こ、こんにちは大宮先輩…………」


 対象は永棟契。

 なぜそうなるのかは想像に難くなかった。

 

 「永棟君…………本当に《エレメント》を宿したんだ…………」

 

 驚きの表情を見せるわけでもなく、大宮はジロジロと舐めまわすように契を観察している。

 

 「お、おかげさまで…………」


 緊張なのだろうか、こころなしか、契の語彙力が低下しているような気もする。

 彼女はさらに顎を指でつつきながら不思議そうな顔をする。


 「目覚めてないのかな?」

 

 その発言の意味をその場にいた五人は瞬時に理解することができた。午前中に真琴と《愚者》が説明してくれた一件だ。


 「真琴は《種子》だと言っていました」


 少し平静を取り戻したのか、落ち着いた表情で契が言う。


 「椋と、懋と先輩と話したあの日、僕が言ってたことが間違いだっていうこと、よくわかりました…………」

「何があったかはわからないけど、今はそんな悠長な事をいってる場合じゃ無いんでしょ?」


大宮はまたあとで聞かせてもらってもいいかな?と、一言言うと、その場にいた村本に向かい一礼する。


「校長先生もお久しぶりです」

「ああ」


簡素な返事でそれを返すと村本は続けるように言う。


「悪いが大宮君、一番乗りの君にお願いしたいことがある」

「はい、なんでしょうか?」

「午後2時、ここにこの学園の全ての《エレメントホルダー》が集結する。それまでに、彼に『あれ』をやってはくれないか?」


彼が表す人物は永棟契のことだろう。しかし『あれ』と言う言葉が表すものの意味を椋はしらない。

村本に謎の頼み事をされた大宮はというと、少し迷ったような表情をみせつつも、その事がらを承諾したようで、一度大きく頷く。


「わかりました。状況が状況ですからね」


あまり気が進まない様子を見せた大宮は、契の方へ体を向けると、彼の腕をつかみ、連れ去るように引っ張る。


「ちょっと辻井君、この子あずかっていくよー」


そういって返事も待たず部屋をあとにしようとする。理由を聞いた所で教えてもくれなさそうなので、あえて何も聞かずに状況をみやる。

とうの契は、現状を理解できないまま、首根っこを捕まれた子猫のようにただ流されていった。


「さぁ、我々も準備を始めようか」


そういって村本が自らのOLを操作する。少しの動作音とともに先程まで何もなかった広間の床から、いつくもの机や椅子が浮上してくる。それは環状に組まれた机で時計回りに円を形成していくと、ものの数秒で完全な円形を作り上げた。入り口から見て一番奥の席、そこは議長席となっているのか、少し回りの席と造形が異なる。

円の中央にはもう一つの円卓が存在し、まるで昔の硬貨のような構図をとっている。


「床下収納……」


少々の驚きに思わず声を漏らしてしまう椋。後ろでは懋が「すっげぇぇ!!!!!」と叫んでいるがそんなことは気に止めたら敗けだ。


「今ここにいる生徒は全て麒麟寮の生徒なので、そこに固まって座ってくれるか?」


村本が指をさす先は議長席だと推測した席の真向かい。入り口に一番近い席であった。

大体と言うのかなんと言うのか、寮間闘技の時もそうであったように、各寮の生徒が集う際は、しっかりと領土を決める必要がある。いざこざが起こらないようにという配慮だろうが、それがさらに各寮の生徒間の溝を広げているようにも思える。それが学園側の作戦なのかどうかは椋の知るところではないのだが。

そして大抵の場合、麒麟寮は中央の席になる。これはなんというか、方角の関係性の問題というか、五神の関係性というか、寮の名前にちなんだ席なのだ。

麒麟をのぞく四神は各々の方角を持っている。


麒麟寮の左には西を司る四神『白虎』にちなんで白虎寮が。

麒麟寮の右には南を司る四神『朱雀』にちなんで朱雀寮が。

白虎寮の左には北を司る四神『玄武』にちなんで玄武寮が。

朱雀寮の右には東を司る四神『蒼龍』にちなんで蒼龍寮が。


集会がもしあるとしたら、席順はほぼ確実にこうなる。

今回もその例にならい、その席順と言うわけだろう。席は各寮8席ずつ。広さは十分にとられていて横一列に着席できるようになっている。

特別、反抗する意味も無いため、契をのぞく四人が席につく。

この座席形態がとられたということは、《エレメントホルダー》以外の人間が会場に入ることを許しているということだろう。おそらく正の《隠者》雁金さんは議長席にすわるだろう。椋、沙希、真琴、懋、契、大宮が参加するので、麒麟寮の残り座席は2つ。1つは麒麟寮のもう一人の《エレメントホルダー》、正の《節制》釉上野花だろう。

彼女とは蒼龍寮で生活していた約一ヶ月の間に一悶着を起こしたのだか、それはまた別のお話だ。


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