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 同日同刻 所花車学園職員塔特別病棟

 

 病室が突然若草色の光に包まれる。

 

 「どうなったんですか?」


 光が作り出した巨大な門から二人の人間が現れると同時に、椋は思わず訪ねた。

 なぜならばそれはあまりに早い帰還だったからだ。彼女らがこの病室を飛び出してからせいぜい7分というところだろう。異常な事態だと察するには十分だった。

 そして返事を待たずして椋は状況を理解した。

 

 「大丈夫ですか雁金さん!!」


 駆け寄った椋はおぼつかない足取りの悠乃を支える。椋の過度な心配もあってか、悠乃は右手で椋を制止させる。大丈夫という意味を込めての行動だろう。

実際傷自体は大きなものではない。それを目視すると少し安心でき、平常心を保ちつつ、少女に再び尋ねる。


 「なにがあったんですか?」

 「それは私から話そう」


そう話したのは雁金さんの隣に立つ男、村本重信だ。奮闘のわりに無傷に見えるが、彼の能力をある程度知る椋にとって

彼も一時的に深手を負っていたに違いないと察することができた。


「だがその前に…」


村本がそう呟くと、椋のOLに一つのウィンドウがポップアップする。ウィンドウには戦闘フィールドの解除をするかしないかと言う類いの言葉と共にイエスorノーのボタンが存在した。イエスを選択すれば今学園の空を包むこのフィールドを解除することになると言うことだ。これはつまるところ村本が視察に行く際に椋に託した巨大な戦闘フィールド内の時間を展開前まで巻き戻すことを意味する。よってこの戦闘で発生した街や人間へのダメージが全て元に戻ると言うことだ。

本来であれば、《エレメントホルダー》である雁金悠乃は自分以外の能力者による回復支援を受けることができない。しかしこの場合は時間を巻き戻す、つまり回復ではなく修復なのだ。故に《エレメントホルダー》である椋も悠乃もその恩恵をうけることができる。

椋は村本の意思をすぐに汲み取り、イエスのボタンをタップする。椋のOLを中心に展開していたのであろうか、窓の外では空がまるで雨空が一点に吸い込まれるように収縮し、変わりに雲一つない快晴が広がる。


「あーっ!いってーなぁぁ!!」


と、先程までの怪我が嘘かのように元気な姿を取り戻した悠乃が大きく叫ぶ。

椋自信こうなる事は大分前からわかってはいたものの、いざ彼女の声を聴くと安心し、安堵の息を漏らす。


「ではまず…」


と悠乃の修復を見届けた村本が話を切り出そうとする。

しかし、悠乃はそれに反応するように言葉に割り込む。


「いいや重信、アタイから話すよ」


そういうと雁金悠乃は手近にある椅子に腰を掛けると、人差し指をピンとたて、時計回りにクルンと回す。

彼女の周辺に再び若草色の光が現れ、小さな門を現出させる。椋はこの学園に入学する前に一度目撃している。この小さな門を現出させる際に登場するのは決まってあの人だ。

悠然と歩くその姿は前に見たときと同じ、相変わらずの老人だった。


「久しぶりじゃの、椋殿」

「お久しぶりですハーミットさん」


彼は正の《隠者》ハーミット。入学前にそのホルダーであり師匠である雁金悠乃とともに椋を鍛え上げてくれた、もう一人の師匠といってと過言ではない人物だ。

そんなハーミットとの挨拶を終えると、彼は隣の巨漢、村本重信の方を向き、再び口を開く。


「こちらも久しぶりか、重信よ」

「そうですねハーミットさん。お元気でしたか?」


村本は生徒には絶対に見せないであろう、低い物腰でハーミットに問いかける。


「そんなつまらない事をいっている場合ではなかろう…。現状はかなり厳しいぞ?」


ハーミットはそんな一喝を村本に送ると、その場にいる全員が見える窓際に立ち全員の顔を軽く一瞥すると、「ここはワシがしきらせてもらおう」という台詞とともに一度咳払いをする。


「緊急事態じゃ」


切り出した一言はそれから始まった。


「ワシは正の《隠者》ハーミットと言う。今から言うことを一字一句忘れてはいけないと言うことを頭に入れて聞いてほしい」


先程までの優しげな表情はいつしか、厳しさを感じる真剣さを帯びはじめていた。


「まずは悠乃。窓を出してくれ」

「ん?あぁ、あいよ」


椅子に腰かけたままの悠乃はハーミットの言う窓とやらを出すためか、その身に少しの光を纏わせる。


『観測者の小窓』シークレットオブザーバー


そう呟くと、周囲を漂う光がハーミットの後ろの窓に張り付くように集中する。光は満遍なく窓をおおうとまるで投射機でスクリーンに映像を写すかのように何かを映す。


「この人達はっ!!!」


その映像にいち早く反応したのは、ベッドで布団を被る契だった。その表情は驚愕から、徐々に怒りへと変わっていくように見える。


「誰なんだこのおっさんとガキ?」


契の表情を伺うように、懋が尋ねる。力強く拳を握り、行き場のない怒りを滲ませる契は、歯を軋ませながらも、その問いに答えた。


「彼らはアーティファクトアーツ社の社員であり、僕を七罪結晶へと引きずり込んだ人間……。正の《塔》の《エレメントホルダー》芙堂頓馬。そしてその横にいる少年はさっき話した世界一の人工結晶技士。小々馬雲仙だ……!!!」

「あれが……」


椋は言葉を探すがそれ以外の言葉が見つからず、喉が詰まる。契の憤りは察するにあまりある。その二人の顔を脳に焼付け、いつか必ず仇を取ると胸に刻んだ。


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