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同日同刻 場所 校舎棟白虎区【白虎コロシアム】跡


 「こんな事が…………あっていいのか…………」


 少女、雁金悠乃は満身創痍の体を持ち上げそう呟く。


 「おい、重信…………。生きてるか……?」

 

 続けた言葉に、悠乃は返事を期待していなかった。

 なぜならば先程からとなりでうつ伏せに倒れる男、この花車学園の長であり、最強と謳われた正の《魔術師》の《エレメントホルダー》である村本重信はもう3分とその場を動いていないからだ。しかし生存していることは確かだ。

 《エレメントホルダー》の特徴としてあげられる、他の《エレメントホルダー》を見つけることができる能力。これを使えば簡易的な生存確認をすることなど実にたやすい。ホルダーの体内に《エレメント》が残っているかを見るだけでそれが生きているというサインだからだ。

 

 「まだ生きてますよ…………悠乃さん……」


 ずずっ、と重たそうに体を持ち上げる村本は悠乃以上に大きな傷を一つ胸元に抱えている。ボロボロの二人に追い討ちをかける様子もない、正の《塔》の《エレメントホルダー》であり、七罪結晶コードネーム《憤怒》を操る初老の男、芙堂頓馬は無表情のまま白衣とともにその身を翻すと、二人に背を向け、助手である小々馬雲仙のもとに向かう。


 「去れ、弱きものよ」


 告げる言葉は二人への興味を一切持たないといった、そういうものであった。

 情で見逃しているわけではない。ただ興味がないから。そういうものであった。


 「言われなくても退かせてもらうよ…………『隠者の隠れ家』(クローズドハーミット)!!!」

 

 悠乃の前に現出した若草の門は、彼女の体力の消耗が原因か少し現出までに時間を要したように感じられた。

 

 「重信!あんた自分で動けるかい?」

 

 そんな悠乃の投げかけに応じるかのように、村本の体から、海のような深い青のエネルギーが湧き出る。それはまるで炎のように揺らめき、自信を包み込むと、静かに体内に吸収されていく。起こる現象は明らかに異常だった。自らの体についた大きな傷、綺麗とは言えなくなったスーツ。流れ出た血液までもが、消えていく、いや、戻っていくのだ。

 

 「もちろんです悠乃さん。ココは一旦引くしかないようですね……」

 「わかってんならさっさと動け!!」

 

 正の《魔術師》である村本重信は特に時を操る能力に秀でている。自身が学園維持のために行っている戦闘フィールドがその代表格だろう。どれだけ過激な戦闘が行われようとも、一定のフィールド内であれば時間を巻き戻し、展開前の状態に戻すことができるという、この学園の根幹をなすシステムといっても過言ではない能力なわけだが、それを個人に適用させたものが先の能力だ。


 「行きましょう」


 戦闘前と何一つ変わらない状態の村本。そんな彼は再び戦う姿勢など見せることなく、雁金悠乃の指示に従った。

 巨漢と少女が同時に消滅寸前の若草色の門を抜ける。それを背中で見やった芙堂は小々馬に語りかける。

 

 「今のデータは?」

 「もちろんしっかり取ってありますよ♪」

 「相変わらずぬかりないな…………」


 少年の無邪気な笑い顔に芙堂もつられるように口元を緩ませる。

 それを見た小々馬の笑いは止まりあんぐりと口を開け、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 「博士が笑った!!」


 

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