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辻井椋は能力が一切使えない。

 それは近代のこの国にとって、稀に見る例である。

 人工結晶の能力の使用には得手不得手あるものの、理論上は誰でも使えるのである。

 

 人工結晶アクトマテリアル。永棟久史が36年前に開発した、誰でも超能力を使うことができる、が売りの魔法のアイテムである。

 人間の体内に流れるソルスエネルギーを動力源にし、人工結晶1つ1つにプログラミングされていることを自分の意のままにこなしてくれる。

 人工結晶は、初期起動前に、必ず脳内に専用のナノマシンを装着しなければならない。

 ソルスとは小脳で作られている、もともと人の脳には必用ではない、とされてきた脳細胞である。

 仕組みとして、脳内でナノマシンがソルス細胞をさらに分解し、ソルスエネルギーとして使える状態にし、それを人工結晶に送り返すのである。そのほかのエネルギーでも代行できないわけではないが、常に携帯しておけて、なおかつ能力を自由に操るとなると、脳と直接つながっている必要がある。ゆえにソルスエネルギーを使うのが最適かつ効率的なのだ。


 小脳を構成する神経細胞は3つの領域から発生すると考えられている。1つ目の脳室帯とよばれる領域である。2つ目の領域は外顆粒層として知られる領域である。この細胞層は小脳の外側を覆い、顆粒細胞を産生する。3つめが、このソルス細胞と呼ばれる脳細胞を生成する、NHS領域である。

 本来、2つ目の領域は、脳の成熟とともに消失してしまうものであるため、成人の大脳は1の領域と3の領域で構成されている。

 前世紀であれば、この3の領域でさへ小脳には必要ない組織として、成長とともに徐々に衰退し、50代には完全に消滅ていくはずだったのだが、人口結晶アクトマテリアルの開発により、人がより活発に3の領域を使うようになっていったため、人類の脳組織たったの30年足らずで、2つの大きな進化を遂げた。

 1つ目はNHS領域の活性化である。

 本来であれば長い歳月をかけて、徐々に衰退していくものではあるが、今では結晶を経由して能力を使うたびに、NHS領域が活性化しソルス細胞の量も増えていくのである。

 ナノマシンはNHS領域内のソルスの一定量の減少を確認すると一時的に脳内でのソルスエネルギーの生産を中止する。

 本来であれば分解した脳細胞は再生しないのであるが、近年のNHS領域の活性化により、ソルス細胞の超高速生産が行われているため、半日ほど休めばまたNHS領域内には大量のソルス細胞が貯蔵ざれていることが判明した。能力は使えば使うほどにその使用限度を向上することができるのである。

 2つ目は、天然結晶ナチュルマテリアルの出現だ。

 人類が人工結晶を使うようになってから十数年ののち、新生児のへその下あたりに、これまでは存在しなかった新たな器官、結晶溜ケッショウリュウが形成されていた。中に入っているのは、直径2センチのきれいな球形の結晶であった。

 今では、幼少期から人工結晶を使いNHS領域が異常に活性化された女性が妊娠し、なおかつ、妊娠中に幾度となく人工結晶を使用した場合に、この結晶溜が新生児の臍の下に形成されるのだと考えられている。

 早期に結晶溜を摘出するのは新生児の体力的に危険なため、3歳の誕生日に摘出し、結晶を加工してアクセサリーとして、子供に携帯させるのが現代の常識とされている。

 

 天然結晶ナチュルマテリアルの持つ能力は一つ。常に脳とリンクしている結晶だからこその能力なのかもしれない。


 それは、自分が真に望んでいることを1つだけ、それを能力として体現するのである。

 力がほしければ、攻撃に向いている能力が自分のオリジナル能力になる。

 誰かに守ってほしいと願うのならば、召喚系の能力が自分のものになるかもしれない。

 定義は確立していないが、現段階ではそう考えられいる。


 〇~〇~〇~〇


 人工結晶(アクトマテリアル)。正式名称 artifact materialアーティファクト・マテリアル

 略してアクトマテリアルである。

 

 人工結晶というものはあくまで人が人の手によって作り出したものであって、神が作ったというわけではない。故に地球の物理法則を無視することはできない。

 

 人工結晶の中で、最も各世帯に普及しているのが、携帯端末である。

 すべての動作を自分の脳内だけで処理、施行することができる。いわば1人に1機である。

 電気を使わない。自分の脳内で生成されるソルスエネルギーを原動力とするので、充電が必要ない。(強いてて言うなら、脳の休憩が充電の代わりである。)

 この機械を人工結晶として扱うかは、議論を呼んだようだが、上記の理由で一応人工結晶として扱われている。

 まだ、このナノマシンを脳内に埋め込むという、科学的なことを受け入れることのできない人間が少なからず存在するため、今でも、電気駆動のモデルも存在するが、使い勝手は確実に前者の方が上だ。


 この人工結晶(アクトマテリアル)には

 世間には家庭用の私生活に活用できるタイプの物しか普及していない。

 

 実戦用。要するに戦闘で使うタイプの物は例外を除き軍事施設などにしか配備されていない。

 あまりに危険であるからだ。

 

 実戦用の結晶には、もう一つの最先端技術が付属しているらしいが、民間にはそんなこと知ることはできない。


 

 〇~〇~〇~〇

 

  天然結晶の能力、ナチュラルスキルには属性わけのようなものが存在する。

 その大きな特徴は、すべてがすべて、地球の物理法則に従っているわけではないという事である。

 

 正確な区分ではないが、数えきれないほどのパターンが存在する。

 

 まずは大まかに分けて3つの系列がある。

 1つ目は現出系(エマージェンス)

 結晶から物体、装備品を出現させる能力である。

 物体、装備品に特殊な能力が備わっている。

 2つ目は召喚系(サモン)

 結晶から生物無生物にかかわらず、パートナーとなりうる物、自分の命令に従うものを呼び出す。

 3つ目は特殊系(ユニーク)

 上の2つに属さないものはすべてこの特殊系に分けられる。


 そしてそれをさらに細かく分けるように、

 各筋肉の増強や五感の拡張、相手に対する弱化や、洗脳や干渉など、区分しきれないほどに存在する。


 この〇〇系〇〇を普段から使うものはいないが、公文書などにはしっかりこの形式で記入しなければならない。


 天然結晶を使うものは自らの能力に固有の名前を付ける。

 これは自分でつける者もいれば、周りからそう呼ばれているため、そう呼んでいるもの、研究機関で命名されたものまでさまざまであるが、基本的に何でもいいのである。

 その名前から、自分の能力のイメージをある程度構築できたら、結晶から能力を発動できるからだ。

 発音は必要ではない。個人差はあるが、行った方が能力の展開がスムーズにいく人もいるし、その逆もいる。

 

 結局、個人の自由なのである。


 無能力。

 大体の人間は、天然結晶が使えなくとも、人工結晶は使用することができる。

 そもそもの仕組み、動力源までもまるで違うのだから。


 その人工結晶でさえ使えないのである。 

 

 ただし、椋にとってそんなことはどうでもいい。

 

 もうすぐそんなことどうでもよくなるのだから。


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