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6

 淡い緑色の光をちらして、門が消失するのを確認すると、椋は先ほど村本から送られてきたシステムとやらを起動するべく、OLに目をやる。

 ポップアップされたウィンドウに示されたボタンを押すだけといった単純な作業であるが、少しだけ緊張が椋の胸に走った。

 

 「一体何があったの?」


 一切といってもいいほど状況が理解できない様子の沙希。

 頼るように椋に尋ねるものの、椋もあまり理解できているわけではない。


 「ちょっと待ってくれるか?」


 椋はそう言うとゆっくりと目を閉じ、自分の胸元に手をやり、そこに架けられた指輪を掴む。

 真琴が混乱状態に陥っているこの状況で今頼ることのできる奴は一人しかいない。

 

 「『移り気な旅人(カプリシャスフール)』!」


 椋のその声と共に、病室の中は結晶光に包まれる。

 今井堂太と、いや、契約者と戦おうとした時と同じように、何故か少量の曇がその光には見られた。

 が、そんな事を気にしている場合でもないだろう。

 金色とは決して言えないその光は、特に変化をもたらすことなく、椋の頭の上に小さな人型を形成していった。


 「なんだあれは………………」


 椋の頭の上に召喚された《愚者》。彼の第一声は雁金さんや真琴と変わらないものであった。


 「フール。一体何がどうなっているんだ?」

 「椋、御前にはあれが見えないのか?」

 

 先ほど雁金さんにも同じことを言われていたが、椋には正直なんのことだかさっぱりわからない。

 それを認めないわけにも行かず、椋はただただ首を横に振った。

 彼らに、いや、正確には自分にもわかるはずの何かがそこにはあるはずなのだろう。

 しかし椋にそれを感じることはできない。何か心の中でもやっとした感情が浮かび上がるが、椋はそれを奥深くに沈め、素直に《愚者》に尋ねる。


 「何があるって言うんだよ?」 

 「それは我にもわからん………。ただ、異質な何か、大きな何かがあそこにはある。それだけは解かる」

 

 はっきりとしない回答の《愚者》。


 「あれは七罪結晶よ………」


 椋の問いに答えたのはフールではなく、ベッドで仰向けになって放心に近い状態になている真琴であった。

 今まで一切所在のしれなかった結晶が今こうして突然現れたのだ。少々の驚きと共に、ようやくかと思う気持ちが胸にこみ上げる。


「ってことはあそこに《傲慢》か《憤怒》の結晶が?」


真琴はベッドにつけた背をゆっくりと持ち上げて、大きく一度深呼吸をすると、いつもの冷静な様子をとりもどし、キリっとした表情に戻る。


「おそらく両方よ…………」


 真琴は深刻そうな表情を浮かべ、少し頭を使うように目を閉じ言葉をひねり出そうとしていた。腰掛けていたベッドから立ち上がると、彼女は再び窓の向こうを見つめ、続けた。


 「あそこにはとんでもないモノがある…………。おそらくそれは七罪結晶だけじゃない。何か昔似たような悪寒を感じたことがあるんだけど……………」


 そう言って再び考えだす真琴。その様子を見た《愚者》は、椋の頭の上からシュッと飛びおり、契のベッドへと移る。

 突然の行動に自然と皆の注目がフールに集まる。

 《愚者》は真琴が見つめる先をその小さな手で指差す。


 「真琴、御前が感じた既視感はおそらく出丘宗、つまるところ正の《悪魔》に似通ったところはなかったか?」

 「そういえば……………」


 真琴は思い返すようにまた考え込んだような表情を見せる。思い出したくもないことだろうが、今はそんなこときにしてはいられないようで彼女は、自らの記憶を掘り返していた。

 正の《悪魔》出丘宗といえば、この学園に入学する前、《愚者》が覚醒する前の椋を手玉に取ろうとし、自らの能力で部下に椋、沙希、そして真琴を襲撃させた憎き敵だ。

 その当時真琴に、出丘の近辺を調査してもらっていたために感じたそれなのだろうか?

 

 つまり……………


 「あそこに別のエレメントホルダーが?」


 思わず椋が口に出してしまう。

 

 「つまるところ、そういうことだ」


 それはもしかしたら最悪の可能性かもしれない。

 《愚者》が過去に危惧した二つの可能性、七罪結晶を大人が操作する事と、七罪結晶を召喚系能力者が操作する事。

 これらを超える最も恐るるべき事態の可能性が高いのだ。

 

 

 

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