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その後、その部屋に校長であり正の《魔術師》のホルダー村本重信、そして正の《隠者》のホルダー雁金悠乃が入ってくるまで、さして時間はかからなかった。
もちろんその面持ちは軽いものではなかったと言える。
「永棟契君……」
重い口を持ち上げて、そう切り出したのは校長だった。
どんな処罰が下ろうが、契は甘んじてそれを受け入れるつもりらしい。
「今回の件、非常に残念だ」
「はい」
村本の言葉には非常に重量感が感じられ、先程までの軽くなっていた雰囲気が嘘のように塗りつぶされる。
だが
と、続くその二文字の言葉が耳に聞こえる。
それは椋の耳にも確かに届いた。
契は唖然とした表情でその言葉を受け取っていた。
「そちらの事情を吟味しないといけないようなのでな、少しの間だが見送ることにする」
予想外の言葉に場の空気はさらに変化する。
歓喜ではない。喜べる状況とは決して言えない。だが、今の時点で最悪の結果を目の当たりにすることだけは回避することができたということだ。
5人皆一同にどうしたらいいのかわからないといった様子で、病室は一時的に静まり返る。
「正直に言えよ重信」
沈黙を続ける部屋の雰囲気を打ち破ったのは、終始無言を突き通していた雁金さんだった。
「ちょっと悠乃さ……………」
と、彼女を制止する様に放った村本の言葉を無視し、雁金さんは続ける。
「おいクソボウズ、アンタは重信に勝ったんだよ」
「校長先生……に…?」
意味を理解することができずにすぐさま聞き返す契に対し、雁金さんはにぃっと笑みを浮かべた。
「どういうことか説明してやるよ、耳の穴かっぽじってよく聞けよ?」
「はい…………」
切り出した雁金さんは面白そうに語っていく。
「まずアンタは自分自身に勝った、その証明がアンタに宿るエレメント、正の《力》だ」
「僕に……《エレメント》が………?」
一番意外な表情を見せたのは契自身。
なぜなら契以外のこの場にいる全員がその事を知っていたからだ。
「そう、アタイは七罪結晶の呪縛からアンタを開放するために禁手を使い、アンタに強制的にエレメントを宿らせた」
「そうか………あの時…………」
当時の鮮明な状況をなんとなく思い出してきているようで、それを辿るようにして話に耳を傾けていた。
「あの時は半々といったがな、禁手と言ったとおり、正直なところ失敗の方に九割以上傾いていたんだ」
「そうなんですか師匠!?」
割り込むように椋が雁金さんに尋ねるが、雁金さんはただ首肯するだけであった。
「でも、なんで契に《エレメント》が宿ったってことが、校長先生に勝ったってことになるんですか?」
そう尋ねる沙希に答えたのは、雁金さんでも村本でもなく、真琴であった。
「契がエレメントホルダーになったってことは、契に利用価値がで来たって事なんだよ」
「利用価値?」
「そう、簡単に言えばだけど、『まだ世間に正体の公開されていない《契約者》としての契を退学にする』ことと、『契がエレメントホルダーとしてこれから学園に貢献する』事とを天秤にかけたとき、現状では後者に傾くのよ」
「なるほど……」
沙希の納得したような態度に真琴は、それだけじゃないと付け加え、続ける。
「契はこれでもアーティファクト・アーツ社の次期後継者」
「これでもって……」
契が少し不満げな表情で真琴に言うが、真琴はそれを睨みをきかせた視線で止める。
「それも天秤の後者側に加担するってこと?」
沙希は少し確信に近付けたような表情で真琴に尋ね、真琴はそれを首肯で返した。
「たぶんこんなところですよね?えっと…………椋の師匠さん?」
「大体そんなところだ。だが、情状酌量ってだけだ」
付け加えるように雁金さんが言うと、村本はわざとらしく一度咳をし、雁金さんに続くように言う。
「そういうことだ。罰則については後日言い渡す事にしよう」




