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同日 時 正午 所 花車学園職員塔特別病棟
「これで封印できたのかい?」
少年、永棟契は驚きの表情を見せつつ、白く染まった4つの結晶を手に持つ。
「本当に使えなくなったの?」
と、とてつもな興味深そうな目でそれを見つめるため、椋は急いでそれを契から取り上げる。
「今、起動しようとしなかったか…………?」
歌くり深そうな表情で周囲にいた沙希、真琴、懋、そして椋。つまるところ全員で訝しげな視線を契に送る。
「だ、大丈夫だよ!!!さすがにもう使おうとは思わないよ!!!」
言い訳をしているようにも見える口ぶり身振り手振りで、なお怪しく見えるものの、この場にいるほとんど人間は彼のことを信用している。もうこのようなものに犯されることはないだろうと信じている。
「プッ………………」
どこからかこぼれたその小音と共に部屋の中が笑いに包まれ、一気に暖かい空気へと切り替わった。
こうやって5人全員が揃ったこと自体久しぶりなのかもしれない。
こうやって5人全員が揃って笑うのは久しぶりかもしれない。
そう思える程に長い時間の末に、今の状況を作り上げることができた。
契が目を覚ますまでのあいだに、何も知らない七瀬沙希には全てを話した。
大まかにまとめると七罪結晶のこと、そして契約者としての契のこと。この二つだ。
彼女も馬鹿ではない。さすがに気がついている部分も多かったようで、特に蒼龍に移住しているあいだに麒麟寮にいた偽の自分、能力孤児のⅨの存在も気がついていたと告げられた時は驚いたものだった。
彼女いわく、「何年一緒にいると思ってるのよ」らしいが、そんな下手な行動をⅨがすると思えないあたり、これは野生の感とか言う奴だろうということで勝手に解釈した。
連日ニュースを騒がせた『契約者』が起こしたとされている蒼龍第一女子寮襲撃事件と白虎急襲事件も椋が関係しているということは気がついていたらしく、「むしろあれだけニュースに堂々と能力を晒して私にバレないと思う方が不思議」とのことだった。
しかし『契約者』の一件について知る者は3人の中に1人もいなかった。真琴だけはなるほどといった表情を見せていたものの、沙希と懋はその現実を受け入れることのできないような顔で、小一時間黙り込んでしまったものだ。
契が起こした、教師『薗前晴彦』から七罪結晶《嫉妬》を強奪した事件、蒼龍第一女子寮での『大久保小崋』襲撃事件、《校舎棟第四特殊闘技場》での寮間闘技で行われた乱入事件、そして先日起きた離島での朱雀生『今多堂太』急襲事件、この全ての事件を三人に話したのだ。
正直に、受け入れがたいという表情だけは三人共通のものだったが、すべてを話した上で皆理解してくれた。
ようやく目を覚ました契。目覚めは良いようで、結晶封印の際もその光景に興味を示していた。
今でも彼の七罪結晶にとりつかれた姿が脳裏に焼き付いき離れようとしないが、この様子だと大丈夫だろう。そう思える程に彼は劇的な変化を遂げていた。




