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 2062年6月1日


 ひとりの少年が目を覚ました。

 ゆっくりと持ち上げたまぶた。その瞳が最初に映し出したものは白い天井だった。


 (ここは…………?)


 首を多少左右に動かし現状の確認を行おうとする。

 そんな少年が第一に感じた異変は日付であった。

 部屋の壁にかけられたデジタル時計の日付が6月1日を示していたのだ。

 

 (何がどうなってるんだ…………)


 少年が体を持ち上げる。まるでスッキリ眠れた朝のように、体が羽のように軽く感じられた。

 

 (なんで記憶が飛んでるんだ?僕は確か一昨日…………)


 少年が一昨日のことを思い出そうとする。5月30日。それが少年にとって最も新しい記憶だからだ。

 

 (確か…………)


 と記憶を掘り返そうとしたその時、突然少年のいる部屋の扉が開いた。

 扉の向こうに立っていたのは自分と同じくらいの身長をした少年。そう長くない黒髪。はっきりとした目。目にかかるかかからないか程度まで伸びた前髪。間違いなく目の前の少年は自分の親友、辻井椋に違いなかった。


 ―――――――そうだ。僕は勝てたんだ。


 脳裏によぎる記憶の破片が少年にそう悟らせる。

 

 ―――――――確かに感じる…………。


 少年は胸の内に感じることができた。今までにはなかった二つの力を。


 ――――――そうだ。彼と話をしよう。


 そんな思いがこみ上げると同時に、これまではは空っぽのように静かだった心の空洞が何かで埋まっていくような気がした。


 ――――――どうして今まで気付けなかったんだろう。


 徐々に整理がつき、思考ができるようになった少年の脳にあふれる後悔は、すぐに希望に上書きされる。


 ――――――そうだ。僕が欲しかった力はこれだったんだ。


 椋が大粒の涙を流しながらこちらにほほ笑みかけている。真琴も、懋も、沙希までいる。


 ――――――失っていた何かを僕は見つけたんだ。


 そう思えるようになると、満ちだした感情はすぐに溢れ出し、自然と涙に変わる。初めて流した、喜びの涙だ。


 ――――――そうだ。彼らに言わなければならないことがあるだろう。


 少年はゆっくりと口を開く。

 その言葉を口にするために。


 ――――――うまく言葉にできるだろうか…………。でも言いたいんだ。


 思いとは裏腹に、少年の口は謝罪の言葉を表に出そうとする。


 ―――――――違う、そうじゃない。ちゃんと、こう言うんだ。


 込み上げる様々な感情を涙と共に一度ぬぐい、少年は静かに、だが力のある声で言った。



 「ただいま」

 




第18章 非力な者の末路 終

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