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「力が欲しかったわけじゃない。って言ったら信じてもらえないだろうし、嘘になる」
そう言って自嘲する様に契の顔から笑顔が消えていく。
「………………」
椋は言葉を返すことなく、静かに契の話に耳を傾ける。
彼は相当に勇気を振り絞っているように見える。怖くて震えそうな本心を真剣な表情で隠し、ありのままをさらけ出そうとしている。
それを受け入れるのが自分の、辻井椋としての役目だ。
彼が再び七罪結晶にとりつかれようものならもう一度戦うことになるだろう。そこで勝とうが負けようが、結果として契が七罪結晶を立つことができない限りこの戦いは続くことになるだろう。
「僕が七罪結晶を手に入れたのは各寮対抗試合の打ち上げの時だ。第一寮の噴水があるだろ?あそこに落ちているのを偶然見つけてね……」
大まかに予想通りな話の流れ。
それを聞きながらも、これまで契の変化に一切といってもいいほど気づくことのできなかった自分の不甲斐なさに嫌悪さえ感じる。
「君が僕に七罪結晶のことを聴きに来たことがあっただろ?あの時僕は既に結晶を回収していた。そして人工結晶の操作を誰よりも得意とする僕だからこそ、触れた瞬間にその驚異に気が付いた。これは人の世にあっちゃいけないものだって」
「……」
契が語る言葉に嘘偽りがあるようには見えない。
まるで記憶をさかのぼり、その確認をしているような淡々とした喋り。
受け止める椋。こみ上げるものを抑えながらも話を聞き続ける。
「きっと君はこう思ってるはずだ。『なぜその時俺に話してくれなかったのか』って」
「わかってるならなんで!!」
沈黙を通そうとしていた椋の口から反射的に言葉が漏れる。
強く放った言葉はしっかりと契に届いたのだろうか。彼は動かないハズの体を無理やり起こし、叫ぶ。
「君を守るためだ!!大切な友人を、親友をこんな危険なものに関わらせていいはずがないだろ!!!」
綺麗事には聞こえなかった。しかし椋の平静はその言葉で簡単に崩れる。
じゃあ何故このような蛮行に移ったのか、なぜ人を傷つけるような行為をとったのか。ほかにも山ほどある聞きたいことが頭の中でうずを巻き、うまく思考がまとめられなくなっていく。
「僕はこれでもアーティファクトアーツ社の跡取りだ。人工結晶をいじくりまわすことくらいはお手の物だし、原石に自分でプログラミングすることもできる。おそらく僕以外は知らないであろう原石のプログラミングのリセットだってできる」
「そんなこともできるのか……」
沈黙を守ることなど忘れ、素直に感心の声を上げてしまう。
「ようやくいつもどおりの椋になってきたね…………」
少し苦しそうな表情を浮かべながら笑う契。
おそらく七罪結晶の依存症状が出始めているのだろう。
彼が暴走するまでそう長くない。
それを考えるには十分すぎるものだった。




