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椋の一言に雁金さんは驚きをみせることはなく、ただ静かに語る。
「こりゃアタイにどうこうできる問題でもないだろ……」
「はい……」
「どうしたいかは自分で決めな」
雁金さんは「よっこいしょ」と掛け声を上げ立ち上がると、3つの結晶を椋に手渡す。
少し長くなった髪を揺らし、踵を返すと、自らの前に若草色の門を現出させ、
「アタイはちとここの校長と話があるんでね、先にいってるよ。とりあえずコイツの正体、今のあいだだけは伏せといてやる」
とだけ言い、そのままもんの奥に向かい歩いていく。
門が閉まり切る前に、頭を下げ「ありがとうございます、師匠」と一言とばすと、雁金さんは振り返ることなく手を振り、静かにその門を閉じた。
静まり返った孤島。
椋の脳内は一連の整理に入っていた。
なぜ今まで気がつくことができなかったのだろうか?
エンヴィの正体につながるヒントはこれまで数たくさん出てきたではないか。
天然結晶を持たない人間であることも、麒麟寮の人間である可能性が高いということも、人工結晶の扱いに慣れているということも、更に言ってしまえば麒麟第一寮の寮生であるという可能性までも一時的に絞り込めていたではないか。
天然結晶を持たないということでエンヴィの正体が外部の人間という可能性が出てきてしまい、最も身近な存在に天然結晶を持たない人間がいたことを忘れてしまっていた。完全に自分の落ち度だ。
今思えばエンヴィが寮間闘技での乱入騒ぎを起こしたとき、契はとなりにいなかったではないか。
これが最良なのか最悪なのかがわからない。
今からどうしたらいいのかがわからない。
目を覚ました契になんと言えばいいのかがわからない。
そもそもなんで契が七罪結晶に手を出したのかがわからない。
閣僚対抗試合最終戦。黒崎との戦闘を終えた後の打ち上げ会、前日に少しいざこざだあったこともあり契は出席していなかった。もしかしたらあの時に拾ってしまったのだろうか?
しかしその後一度契に七罪結晶の話を聞きに行った時には彼はそんな素振りを一切見せていなかったではないか。
脳内での論点が定まらず、議論が様々な方向に飛んでしまう。
とりあえず契の目が覚めるまで待とう。
その結論に到達するまでにさして時間を必要としなかった。




