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立方体の物体を鷲掴みにした雁金さんは目の前に若草色の門を現出させるとそれ以上何も言うことなく門に突っ込んでいく。
ここからでも見える位置に突如出現する大量の門。椋自信昔ソレイユ戦で使った戦法を雁金さんが行おうとしていた。
一斉に開き出す門の中、一つだけ際立って光る門の中から現れた雁金さんは、手に持った立方体を握りつぶす。粉々にくだけ落下するはずの破片は不自然に滞空を続け、破片全体で大きな曲線を描く。まるで天の川のような美しいフォルムのくぼみ部分をしっかりと握ると、雁金さんは右手で矢を打つような素振りを見せる。
何も握られていないが振り絞ったそれを離すとと弓から光線のような一直線の光が放たれた。
青空を裂く若草の光線はまっすぐ犬神を貫かんとする。しかし対抗するように飛ばされた犬神の五つの斬撃は矢を簡単に引き裂き、そのまま雁金さんまでをも削ろうとした。
「ちっ!!出力不足か!!」
雁金さんは隣接する扉に飛び込む。犬神の斬撃が容赦なく門を引き裂いた頃、その犬神の背後から飛んできた矢がその左足を引き裂いた。
「単能が!よそ見してんじゃないよ!!」
そんな犬神の背後にある門には雁金さんが星屑の弓を構えながら佇んでいた。ニィと嫌な笑みを浮かべた雁金さんが叫ぶ。
「星屑一閃!!」
先程の一撃とは桁違いな量の光を放ち輝く弓から放たれる一撃はまるで流星のように犬神に向かって行く。
しかしそれが犬神に当たることはなかった。
一閃を遮るように飛び込んできたのは黒豚。猪に近い造形のそれは突進と共に身体を90度回転させると自らのそりたつ2つの牙に矢を当て、弾くと言うよりはそらすといった形で一閃を無効化した。
雁金さんの指示をまつ椋の隣に落ちた流れ弾は見た目にふさわしいといわんばかりの威力で大地を削り取り地を揺らした。
もちろんとっさの出来事にうまく順応できるほど素晴らしい能力を持っているわけでもない椋に回避するすべなどあるわけもなく、「のわっ!!」と、声をあげかなりの距離をその爆風によって吹き飛ばされる。
「だいじょうぶかぁぁぁ?」
爆風に混じって聞こえる叫ぶような雁金さんの声に、「生きてはいます!!」とだけ返す椋。
実際問題、当たっていたのならば本当に命に関わっていたであろう 。
いまこうして見ているだけでも、ソレイユ戦で見ることができなかった師匠としての雁金さんの実力が見て伺える。なにせあの化物、七罪結晶の召喚獣《犬神》と十分に渡り合えているのだから。《尾裂狐》にも、《傾山羊》にも一切といっていいほど歯が立たなかった自分とは比べ物にならない。それを感じるには十分すぎる光景が目の前には広がっていたのだ。




