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「えっと…ね。アタシの家の問題なんだけどね…」
「ちょっと、おねぇちゃん!?」
驚くというよりは意外というように優奈が口をはさむ。
「いいのよ、優奈ちゃん。ここまで言っちゃたんだもの。向こうの二人も気になってしょうがないと思うし。ね?」
「まぁ気になるって言ったら気になるけど…。言いたくないんだったら全然大丈夫だからさ…」
と真琴の投げかけに椋が正直に答える。
「うちの家の父は《皇帝》の正の能力者よ。それでいてどうしようもない糞野郎だったわ!」
苦い顔をしながら彼女が言った。
彼女の話はいつも突拍子もないが、嘘でないのだけはわかる。
「で、どういった能力だったんだ?」
椋が真琴に尋ねる。その質問が出た途端、真琴の横にいた優奈が震え始める。
そんな優奈を真琴は優しく抱きしめ背中を撫でながら、椋の質問に答えた。
「アイツの能力は『皇帝の勅命』。どんな命令をも絶対に従わせる能力…。命令できる事柄に制限はなく、その人間が実行可能なのであれば何でもいう事を聞かせる。そして恐ろしいことに回数に制限がない」
椋でもすぐに分かった。その能力のえげつなさが。
そして、先ほどからの異常なまでの優奈の震えから、一つの結論を導きだす。
「家庭内暴力…。しかも自分の手を一切汚さない。きたない…きたなすぎる…」
真琴が一度大きく頭を縦に振り、さらに補足していく。
「アイツは…姉妹だろうと関係なかった…。アタシたち二人に『全力で戦いあえ』って命令をしてただ笑ってた…」
椋の拳に自然と力が入る。
椋の家の家庭環境も人に言えるようなものではないが、これは流石に酷すぎた。
「それで、能力に対する対処法を探ったわけか」
「そういうこと。実際調べるまでは一切の情報が入ってこなかったけど、調べてみれば情報がわんさか出てきたわ」
真琴が皮肉そうな笑みを浮かべる。
「能力に気が付いた人間には、全情報を与えるようになっているみたいだね」
先ほどから黙り込んでいた沙希がいう。
「普通なら、というよりも現代なら見つけられない方が当たりまえだから、見つけたものに全情報を与え、絶やさないようにする。そういうことなんだろう」
これが柊姉妹がこの能力について知っていた理由なのだろう。
「今その父親はどうしてるんだ?」
あまり聞きたくはないが、ここまで聞いたのだから結末が気になる。
「逃げたの。母と3人で家を出た。その日アイツの『必ず家に帰ってこい』っていうコマンドが出ていなかったの。それを見計らってね」
「ごめん。つらいこと聞いちゃったね…。話してくれてありがとう」
「いいのよ。アタシが進んで話したんだから」
椋の後に続けるように真琴が答えた。
彼女は彼女ですっきりしているようだった。
この時椋は心に一つの誓いを立てた。
次もし柊父に会うことがあるのならば、何と言われようとも、絶対に一発殴ってやると…。




