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「《愚者》が超高燃費でなければ君は今頃この学園の頂点に立っているだろうさ」
村本が椋の思考を読んだかのように言う。その言葉を聞き、椋は軽く笑い飛ばす。
「そんなものに興味はないです!僕は自分の周りが幸せならそれでいいんです。自分のことを特別だとは思えないし思いたくもないんです」
「やはり君は実に不思議な子だな……。まあ今日の要件はこれで終わりだ。さっきも言ったように焦って答えを出す必要はない。こちらもある程度の対策は考えておくからな、ゆっくり考えてくれ」
そう言うと村本は自分のデスクに向かい何かの準備を始める。椋が訪ねようとするその前に村本は口を開く。
「私は少々立て込んでいてな、すまないが先に失礼する。またⅤを呼んで向こうに推移させることになっているからそれまでここで待っていてくれたまえ」
そう言うと巨漢は足早に豪華な装飾の施されたドアノブを回し部屋を出て行った。
また来た時と同じようにさして待つ事もなくⅤが表れ、いつものように椋を推移させた。
○~○~○~○
今の時刻は12時過ぎといったところか?猛烈な空腹が椋を襲っていた。
もちろん動けない椋のために気が利く料理系ぽっちゃり男子の新田恭介は作りおきの弁当を用意してくれているのだが。先ほど村本にかけられた能力、『魔術師の時空時計』のせいか、胃の中のモノを消化する時間までもが早くなっている気がする。排泄の回数も増えた上にこの空腹感だ間違いないだろう。
人間は基本的に空腹というものに抗えない。何もないならまだしもそこに食べ物があるならなおさらだ。
「痛ッ…………………」
まだ痛む体を持ち上げ、弁当のもとに向かう。皆さん変わらず学校で勉強に勤しんでいる中、一人部屋で弁当を食うことに若干の罪悪感はあったものの、それを上回るほどに空腹感が半端ではなかったのだ。
いつもながら同室の相棒に感謝を込め「いただきます」と一言。My箸を手に弁当の蓋を開けようとしたその時だった。
灰の、いや、今は黄のOLに一本の連絡が入る。
「こんな時間にボイスコール?」
疑問に思いながらも送信主を確認する。
[坂本乙姫]
日ごろあっていないわけでもない彼女からどうしてだろうなどと思いつつも椋はその電話をとった。




