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ゆっくりと二つを近づけていくと異変に気がつく。
《色欲》が《慈悲》から逃げようとするのだ。
簡単に言えば磁石だろうか?同極同士を近づけ合った時の反発のような感覚が椋の左手に伝わる。
しかし右は違う。
まるで磁石が異極を引きつけるかのように《慈悲》が《色欲》を引っ張ろうとしているのがわかる。
力の差は歴然だった。《慈悲》が椋の体を動かすかのように強引に《色欲》とくっつく。
「えっ?」
と、突然に自体にとりあえず《慈悲》を剥がそうとするがそれを許さないかのように《慈悲》が強烈な光を発する。痺れるような痛みに相まって自分の体までもが悲鳴を上げたので思わずそれを自分の布団の上に投げてしまう。
「すごいわね…………」
真琴が思わず感嘆の言葉を漏らす。
続く新田まで「おぉ」と二つの結晶が引き起こす現象に釘付けになっていた。
《慈悲》は下のカチューシャからだんだんと形を変えていく。いや、まるで《色欲》を喰らうかのように侵食して言っていると言ったほうが正しいのだろうか?《慈悲》は《色欲》を徐々に自らの白に染め、包み込んで行く。
「なんか…な…」
「なんか…凄いわね…」
「なんか…ね…」
椋、真琴、新田の三人は声を揃えて似たようなことを言う。これが俗に言う封印なのだろうか?村本の言うとおり《慈悲》はきっかり十分で《色欲》を完全に包み、真っ白に染め上げた。
「まあ何にせよ、これでようやく目標達成か!!」
静まり返る部屋で椋が確認するかのように叫ぶ。しっかりと頷く真琴、ニコニコと微笑む新田。ようやく確信が持てたわけなのだが、何かひとつ大切なことを忘れている気がする…………
「っ………!金田君は!?」
「そうか…あんた知らないなのね…」
真琴の放つ意味深な発現に、妙な不安感を覚えるがそれ自体はまことの次の発現で消える。
「入って来なさい!」
玄関口に向かい叫ぶ真琴。まぁ無事なら問題ない。真琴がいるなら麒麟寮に侵入する事くらい簡単な事だろう。
そこまで古く無い建物のはずなのだが、扉は木の軋む音を立てながらゆっくりと開いて行く。
入って来たのは黄色いラインの入った麒麟の女子制服をぎこちなく着る、身長が低く、短いボーイッシュな髪型をした活発そうな女の子………
「ど…どちら様ですか?」




