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「一応確認しとくけど、アンタ理解できてる?」
真琴が馬鹿を見るような目でこちらを見てくる。
「バ…バカにしないでくれ!ここまでは…まぁ…何とか…?」
反論しきれない自分が情けない。
「まぁ。…1回でアンタが理解できるとなんて毛頭思ってないけどね」
「グッ!」
といい加減話が進まないので、軌道修正する。
「そして、立てこもり事件の時に少しとはいえその能力が表に出てしまった。知らない人からすれば、本当に夢のような話よね」
「その夢のような話を追って、ほんとに人工結晶が完成したというんだからすごい話だね…」
なんだか少し歴史の裏に触れた気分である。しかし真琴は更に驚くべきことを言った。
「実はね椋、人工結晶の完成にも裏があって、携わった3人のうち1人に、《戦車》の正の能力を持つ人がいたの」
「え…」
「実質的な開発リーダーは永棟久史って人になってるけど、貢献度で言ったら《戦車》の力を持っていた人の方が大きいらしいの。実際その人の能力がなかったらそもそも完成はなかっただろうって話も聞いたことがあるわ」
ここで、1つ気になるところがある。
「その《戦車》の正の力ってのはどんな能力だったんだ?」
椋が尋ねるが、帰ってきた言葉にその答えは含まれていなかった。
「流石にアタシもそこまでは知らない。アンタの能力だって知らなかったでしょ?」
と、言われてみれば確かにそうである。そのまま真琴は続ける。
「それに、あくまで適性があった人間に宿ったとしても、その能力を決定するのはその人間自身なのだから。その人が何を望んだか、何を願ったかによって変わるらしいわ」
彼女の言葉に、椋は少し考え込んでしまう。
「能力を決定するのは自分自身…。じゃあ、この『光輪の加護』は俺が望んだっていう事か?」
「アタシにはわかんない。今回の事件の現場で、アンタが覚醒の瞬間何を願っていたのかなんて…」
(俺があの時…願ったこと…?)
あの時のことを必死に思い出す。
「俺は…。俺はあの時…、死ぬなんてことを考えちゃいけないって思った。この前死んだら何も残らないって知ったばっかなのに、俺は愚か者だって…」
(そこで俺は何を願ったんだ…?)
今回の事件の記憶を細部まで思い返す。
そして思い出す。
「沙希を…助けなきゃって。この現状を打開できる………あそこから沙希を救い出せて、なおかつ小林達を叩きのめせる強さがほしいと思ったんだ」




