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 「ガッ!!」


 これでは気絶しない。最後の一手を白鳥に仕掛ける。全くこの蛇槌という物は本当に使い勝手が悪い。よくこんなものを出丘は操っていたものだなと思いながら、遠方に飛ばされた白鳥の目の前に向かい左足で跳躍する。

 

 「何をする…………………」


 椋は白鳥の上に馬乗りになると両足で白鳥の両腕を封じ、左手に携えた蛇槌を彼の眼前に運ぶ。


 「それとも七罪結晶のせいなのか?」

 「やめろ!!俺からソレを奪うなぁ!!早く来い傾山――――――――――」

 「これがあんたを苦しめたのか?」

 

 椋はそれ以上何も言うことなく、ゆっくりと蛇槌をカチューシャに接触させた。


 「あ゛あぁぁぁぁぁぁ!!」


 白鳥の意識と共に砕け散る《色欲》。その声をかき消すかのように七罪結晶から放たれる悲鳴のような声。黒崎戦での《強欲》を破壊した時も似たような音が鳴っていたきがする。しかし今回は前回のような失敗はしない。前は破壊した後の結晶を回収し損ね、契約者エンヴィを生むという取り返しのつかない事件を起こしてしまった。そんな連鎖を続けてはならない。

 椋は気絶した白鳥の周囲に散らばる細かな黒紫の結晶をひと粒ひと粒丁寧に回収すると、それを一度ブレザーの胸ポケットの中に入れる。乱雑に扱っているわけではない。他に入れる場所がないだけだ。


 終わったという感覚を共感できる人がいない中、椋は改めて惨状を見る。

 最初はきちんとドーム状をしていた闘技場も今では天井は存在せず、横壁も半分近く削られてしまっている。上空から見ればアルファベットのCの形になってしまっていたということを先程椋は確認していた。


 「……………………………………こんなんが勝ちって言えるもんか」


 誰でもない自分にむける叱責。おそらく馬鹿にならない怪我人が出ているはずだ。この声を聴く人などいない空間でただただ椋は自分を責め続ける。


 「…………………自信過剰もいいところだ」


 足りない。いくら《愚者》や周りから注意を受けようと自分ひとりで解決できると思っていた自分を殴りたくて仕方がない。


 「…………………馬鹿だ………俺は……」

 「バカじゃないよ」


 ふと後ろからそんな声が椋の耳に届く。

 振り返るまでもない。この声は間違いなく真琴だ。


 「アタシは途中から記憶がないし何があったかなんてわかんない」


 後ろから聞こえる足音は二つ。金田も隣にいるのだろう。足音の一つはそこで泊まり、もうひとつだけがこちらに近づいてくる。


 「でもさ、椋。アンタが頑張ってアタシたちを守ってくれたってことだけはよくわかるの」


 足音は椋の真後ろまで来るとぴたりと止まる。


 「でも……でも俺は!………関係ない人を何人も…………何人も巻き込んだんだぞ……」


 椋は振り返ると同時に何か暖かいものに包まれたような感覚に陥る。現状を理解するのに少しだけ時間を要した。

 椋の震える身体を沈めるようにその両手を背中に回した真琴。


 「アンタがやらなきゃ死人が出てもおかしくなかった。そこは誇ってもいいところだと思うよ」


 その一言とともに真琴が少しだけ圧迫を強めた気がしたが、猛烈な睡魔とともにそのまま椋の意識は途絶えた。

 

第17章《色欲》、窮地 終

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