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そう、あの時、正の《悪魔》出丘と対決し、倒した後。フールが《悪魔》から自分の力を回収しているあいだに試した能力の延長線上にあるこの力。
その後正の《隠者》であり師匠、雁金悠乃との特訓で掴んだ感覚を、『隠者の信託』によって伝えられた能力を、今解禁する。
イメージを固めると宣言もなく自然と光輪が形成され、空気をけるように右足を伸ばすと、自然と跳躍が始まる。
能力のリセットとともに光輪の数も全て元に戻っており、足の光輪が一つ霧散したのを確認すると一直線に白鳥に向かい跳躍する。
赤い一角を構えた傾山羊がそれと阻害しようと『光輪の加護』に反応するスピードで進路を妨げる。
この能力『光輪の加護』は移動速度拡張ではなく移動能力拡張であるため傾山羊をスルーすることは容易だが、それでは目的地に現出した後背後からの強烈な一撃を受ける可能性がある。それを見込んだ上であえて目的地を白鳥より少し手前、だいたい傾山羊が追いついてくるであろう位置に調整したのだが、案の定おおよそ予想通りの位置に傾山羊が飛んでくる。
能力の暴走の心配など一切しない。そんなことより絶対に助けなければならない人がこの近くにいる。守らなければならない約束がある。
なに、実際に暴走させたことなんてほんのガキの頃のことらしいし記憶にもない。そんな恐怖に縛られたって現状はどうにもならない。それならいっちょ暴れてやる!
そんなやわらかそうに見えても硬い硬い決意を固め、目の前に飛び込んできた紅蓮の角を滾らせる傾山羊。脅威に慌てる様子もなく椋はイメージを形成していく。正の《隠者》ハーミットから教わったように。
「『愚者の道程』!!!」
宣言とともに黒色の結晶光が椋の透明の結晶から溢れ出る。
「対象正の《悪魔》………!!」
宣言とともに徐々に透明の結晶光は黒く染まり、ある物質を形成していく。
「対象、『理解不能の蛇槌』!!!」
椋の手元で次第にはっきりとした金属質に変えていく物体。柄頭には1匹の尾を飲み込む黒蛇の装飾、赤褐色の柄には大きな黒蛇が柄頭に向かい巻き付いている。後部にはかなり鋭利な一枚の刃が装着された戦鎚。また使う日が来るとは思ってもいなかった正の《悪魔》出丘が明かした二つ目の能力、『理解不能の蛇槌』だった。




