9
真琴は、携帯の投射機を使い、白い壁をスクリーンにして、解説を始めた。
「まず、この世界には、42種類の特別な力。まぁ超能力みたいなのが大昔から存在したわけ。昔の人は魔術やら神の力みたいなこと言ってたらしいけどね」
ぶっ飛んだ話を始めたな…と思いつつ、話はしっかり聞く。
「その能力の存在を後の世代に伝えるために、昔の人は、その能力の特徴を書き、ある21種のカードを作った」
さすがの椋もピンときた。
「それがタロットなのか…」
「そういうこと。でその21種類は、《魔術師》《女教皇》《女帝》《皇帝》《教皇》《恋人》《戦車》《力》《隠者》《運命の輪》《正義》《吊るされた男》《死神》《節制》《悪魔》《塔》《星》《月》《太陽》《審判》《世界》。それぞれに正と負の2種類がある。この能力は、能力者が死ぬまで体内に宿り、その人が死んでしまったら、次の人に移るの。もちろん適性があるのよ?」
指を折り、真琴が並べた単語を指を折りながら数えていたが、彼女の言葉が止まった時に、ふと疑問が浮かぶ。
「《愚者》は21種に含まれないのか?」
真琴に問うと、
「愚者は、過去1度だけしか現れなかったらしい。これもあくまで『らしい』だからね?だから《愚者》を伝えるべきかは議論を呼んだようだけど、№0ってことで収まったみたい」
ほう…と納得してみせるが、時間がたつにつれてとんでもないことだとわかっていく。
「で、それが俺の中に……」
「そう。《愚者》の適正に合格できる人がいなかったって話だけど、たしかにアンタならクリアできてたのかもね」
再び疑問がわいてくる。
「その適性の内容って?」
「タロットに示されている、正なら正位置、負なら逆位置の意味と同じ性格の人に適性があるとかないとか。まぁこれはあくまで推測らしいけどね。」
さらっと流すように真琴が言った
「で、この《愚者》は正か負どっちなんだ?」
「さっき言ったでしょ?『この21種類には』って。《愚者》には正負がないの」
クエスチョンマークが椋の頭上に浮かぶ。
「じゃぁ、《愚者》の適正ってなんなんだ?」
「《愚者》は特別だから、正位置に能力の特徴、逆位置に適性が記されているの」
さっきからなぜか真琴が適性の内容を隠そうとしている気がする。
「で…《愚者》の逆位置の意味は?」
真琴の肩がびくっと跳ね上がる。
「そんなこと気にしなくていいんじゃない?合格したみたいなんだし」
少しあわてたように、椋の興味を別のものにそらそうとする。
しかしそんなにあからさまに隠されては、逆に気になってしまうものだ。
「いや…一応知っておきたいし」
と椋がボソッと言うと、真琴が覚悟を決めたような顔で、椋に向かって罵声を浴びせるように叫ぶ。
「軽率!愚行!気まぐれ!落ちこぼれ!無節操!逃避!優柔不断!無責任!わがまま!落ちこぼれ!」
反論する暇もないくらいの暴言を浴びせられた気がする。
心が痛い………
(なんで落ちこぼれだけ2回も言ったんだ…)
そんな、聞いてはならないことをつい漏らしてはいけないように、心の戸棚の3段目くらいに収納しておく。
(聞かなきゃよかった……………)
真剣にそう思った。




