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宣言通り、真琴は10分もたたないうちに再び椋の病室を訪れた。
真琴の手には小型携帯端末が握られている。
「えっと…どこから説明しようかしら…」
彼女も突然の事態に結構焦っているらしい。
「アンタの中の愚者に事情とか聴けないわけ?」
面倒だからだろうか?まぁ当事者に聞いた方が早いのは確かである。
「ちょっとまって、試してみる。」
(聞こえてただろ?君の知ってることを何でもいい、教えてくれないか?)
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
いつもなら即座に帰してくるはずなのに、今回は沈黙しか返ってこない。
「悪い。無視されてる」
「何そいつ…性格悪っ!」
そんな愚痴をこぼしつつも、真琴が渋々と説明を始めた。
「まず、人口結晶が作られるきっかけになった事件は知ってるわね?」
「幼稚園児を人質にした、立てこもり事件のことか?」
椋も何度かニュースなどで見たことがある。
「それ!あの立てこもり事件を解決したのは誰か知ってる?」
「知ってるも何も…男性ってこと以外公開されてないんだろ?すぐにどっかいっちゃったって聞いたし」
頭の中から、立てこもり事件の記憶を引っ張り出し、話についていく。
「人が助けたってわかってればいいの。アンタはどうやってあの人が能力を使ったと思う?」
なんでそんな簡単な質問をしてくるんだろう。
「そりゃ、結晶を使った………。あら?」
「そう、当時に結晶なんて存在しないわよね?その事件が理由で作られたものなんだから」
今思えばそうである。もう何十年も昔の事件のため、しっかりとした記事は読んでいなかった。
「え…じゃっ…じゃあどうやったんだ?どうやって園児たちを助け出したんだ?」
「あの人が使った能力は、今アンタの中にいるそいつと同じ種類の奴よ」
「ごめんなさい、先生。おっしゃっている意味がいまいち……」
頭の回転は速い方ではない。できればゆっくり丁寧に説明してほしいところだ。
「はぁ…」
と、真琴が椋のことを一瞬にらんだ後、大きなため息を漏らした。




