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「(ここはアンタが決めなさいよね……。アタシは素直にそれに従う)」
真琴が耳元でそうぼそっとつぶやいた。押し付けられているわけでないということくらいは理解できる。これは辻井椋が決めるべき問題だ。
「(二人は対戦拒否権はどのくらい残っている?)」
そんな質問を金田、真琴両名に飛ばす。
対戦拒否。つまりは日常で行われている寮土戦を拒否することだ。この権利は一ヶ月に20回という比較的多めに用意された権利である。自身の用事が寮土戦のせいで遂行できなくなってしまう場合等、忙しい時のために用意されたこのシステム。もちろんその限度を超えてしまえば恐ろしいペナルティがあるわけなのだが。
蒼龍に滞在していた時は可能な限りこの権利を行使し戦闘を行わずに生活していたのだ。
「(ちょっと待ってね……確認しなきゃ……と。アタシはあと6回ね)」
「(僕は後3回っす…………………)」
二人がOLを操作しその残数を知らせてくれる。一度対戦をした生徒と同じ日にもう一度戦闘を行うことはできない。原則的なこのルールがあるため、今の状態なら最低4回拒否できる権利があればこの場を安全に乗り切ることができたのだが、その可能性も今崩れた。
「(3回か……。良し、ここは一旦引こう)」
素直に提案する。危険だ。玄武のデブ3人は別として白虎の上級生、黒髪長髪細身男の全体的な特徴はもう頭に刻み込んだ。素顔はまじまじと見たわけではないので判断できないが、その点をしっかり押さえていれば、あとは地道に探していけばいいだろう。今日の昼休憩の時間に校舎を回り尽くせば問題ないだろう。
「(うん、無難ね……)」
「(何かすいませんん……僕が逃げてばっかいるから………)」
真琴の安心したような表情の後に金田が謝罪を入れてくる。確かに今回金田の戦闘拒否権が4回以上残っていれば一応安全は確保した上で任務の遂行はできただろうが、彼の今の状態を考えれば狙われやすい生徒ということは円分かりだ。おそらく日頃の寮土戦も他の生徒に比べて幾分か狙われやすいのだろう。
「(いやいや、謝ることじゃないよ……とりあえず行こうか……)」
椋達3人は玄武の3デブがその場からさらに奥に進みそのまま姿が消えていくのを確認する。
真琴の後押しがあったとはいえ最良の選択だろう。それを確信し、元来た道を引き返すことにした。
第16部 潜入、白虎 終




