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「で……懋、お前何のために帰ってきたんだ?」
椋の疑問に懋は拒絶の手を下げ何かを思い出したかのように言う。
「そうそう、一言いってくれれば見送りぐらいしてやるのに的なことを言いに来たんだ!!」
「なるほど……」
まぁ部屋に入ってきた時のセリフで大体分かっていたわけだが。
「ってことで一言ぐらい声かけてくれよ!見送りし損ねるところだったじゃねぇか!」
「それはさっきのでわかったから……」
やっぱりコイツは馬鹿だ。蒼龍の一年長瀬といい勝負になるかもしれない。そのくらいこの茶髪は馬鹿なのだ。
真琴が一度わざとらしく咳を入れる。
「とりあえず懋!あんた早く行かないともう時間ギリギリよ!!」
真琴が自分のOLの時計が表示されているウィンドウを可視化させ、懋にグイッと見せつける。
「え!?まじか?やっべぇ!!」
とわかってなかったのかよと言いたくなる場面だがそれを言う前に懋は部屋を飛び出そうとしている。
「よかったら送りましょうか?お二人も準備は整っているようですし」
とこれまで一切発言をしなかったⅤが提案する。
椋、真琴を校舎棟に送るついでに麒麟用の校舎の前に懋を落としていくことなど造作もないだろう。
「あ……ホントですか?」
と今日先程初対面したばかりのⅤに対していつものような砕けた言葉遣いは流石にしないようで、似合わない丁寧語もどきを発している懋。一般的にこっちのほうが正しいのだろうが、いつものとのギャップを感じすぎてしまい少々笑ってしまう。
「お気になさらず。さぁ時間があまりありません。行きましょう」
そんな笑い止まぬままⅤに招集をかけられ3人はⅤの正面一箇所にかたまり待機する。
無言でⅤが両手をこちらに向かい突き出すと、少量の結晶光が部屋に漂い、徐々に増加、Ⅴの小さな唸りとともに一気に結晶光がまたたき、転移が開始された。




