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「おにいちゃあぁぁぁぁあああぁぁん!!」
と後ろの方から、一部の男が聞いたらとっても喜びそうな一言を、途轍もなく低くく、怒りの籠った声でこちらに投げかけてくる。
フッと振り向くと、パジャマ姿の少女が、空中でとび膝蹴りの構えを取りながらこっちに向かってきていた。
ドンっと少女の蹴りが顔面にクリーンヒットしてしまった。
「院内放送使って遊んでんじゃないわよ!アンタは子供か!」
「ごめん、つい悪戯心で……ハハッ………」
まだ怒りが収まらぬ彼女を笑いながらなだめる。
二人は椋の病室で、ベッドの横のイスにゆっくりと腰を下ろす。
時計の表示は4時前を示している。
「でアンタ、アタシに用があるんじゃないの?」
「いやぁ、さっきも言っただろ?悪戯心だって」
再び彼女の怒りがわきあがってくる。
「用事もないのにアタシを呼び出すな!」
まぁまぁ、と再び彼女をなだめ、本題に入る。
「この後沙希からも聞くつもりなんだけど、5日前…3月12日の事件は知ってるだろ?」
この問いかけに、少なからず彼女に動揺が見える。
「うん…。アンタがその被害者ってこともね…」
確か公表はされていないはずだが、なんとなく彼女なら知っているような気はしていた。
少女の顔が少し暗くなる。何となく事情は察しているようだ。
「俺今日の昼間に意識を取り戻したからさ、この5日間のことがまったくわからないんだ。ざっくりとでいいから教えてくれないか?」
彼女だけに、説明を強いるのもなんなので、こちらも、5日前の出来事を、事細かに話していく。
少々重たい話になるので、時折笑いを混ぜながら空気を軽くしようとするが、話が終盤に進むにつれてそんな余裕もなくなってくる。
沙希が拉致されたところから、小林を殴り飛ばすところまで、全部話す。
沙希の髪が切り落とされたところも、椋に謎の能力が覚醒したことも。
途中途中で、真琴が何度か驚く顔を見せていたが、とりあえず一通り話し終えた。
「おかしいね。」
「おかしいだろ?」
彼女の方も、さすがに違和感に気が付く。
「んじゃぁ、次はアタシの番か…。えっとね、まず大体はニュースでやってる通りだよ?」
彼女が一応確認を取ってくる。
「うん。面倒かもしれないけど頼むよ…」
「後でいろいろ質問させてね?」
彼女も先ほどの話で気になっているところがあるのだろう。
「うん」
それだけ言うと彼女は3月12日から今日までの出来事を語り始めた。




