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「椋……お前校長と仲いいのか?」
懋からそんな質問が飛んでくる。
「んなわけないだろ。ただ他の生徒とは違う形で関わってるだけだ」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだ」
あんな奴とは仲良くなりたくもない。素直にそう思う。
一切の私情は挟まず、全て論理的に物事を考える。そんな人間は大嫌いだ。
一方的に契を七罪結晶を学園に持ち込んだ張本人だと決め付け、異論を認めない。
正の《魔術師》を回収するという目的がなければ永遠に関わることはなかっただろう。
「まあもう少し経てば少しは安心できるだろうし、もしかしたらエンヴィのあの中継を見て他の七罪結晶の所持者も色々と警戒してるかもしれない。とりあえずできるだけのことはやったよ」
新田がそう言って急須からお茶を注ぎ、熱々の湯呑を渡してくる。
「ああ、ありがとう」
「いえいえ、そんなことよりもこっちがどうやって所持者を探すのかが最大の問題だよね……。エンヴィが襲撃したあとじゃもう遅いし」
「そうなんだよ……そこをどうにかしなきゃいけないんだけど……」
バンッと勢いよく椋&新田の部屋のドアが開け放たれる。
「呼んだかしら?」
そう言って突撃男子の密談会議を決行してきたのは真琴だ。
「おい真琴……身体は大丈夫なのか?病人は……」
「だから病人扱いすんなっての!!」
と真琴が椋の言葉を遮り叫んだ。まぁかれこれエンヴィの襲撃から3時間ほど時間が経っている。彼女もそれなりに回復はしているようだ。
「アタシが『可視化の片眼鏡』で七罪結晶の所持者を探す。エンヴィの時も認知できたから多分ほかの所持者もわかるはず……」
「でもそれじゃ……」
ここで椋の思考が一旦止まる。『でもそれじゃあ真琴が危険にさらされるじゃないか……』
そう言おうと思ったのだ。しかしこのやりとりは先程懋とやったばかりだ。
『こっちからしたら椋が一人で背負い込んで傷ついていくのを指くわえて見てるよりは一緒に傷ついていったほうが何倍もマシなんだよ』
その言葉が頭の中で反復する。
自分の中で矛盾が渦巻く。
懋の言葉は理解したつもりだ。しかしやはり仲間を危険に晒すわけにはいかない。
椋が脳内で悩んだ末に導き出した答え。
「わかったよ……」




