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あまりにも一瞬の出来事、そして危険性を察した生徒達、そして椋の叫び、全てが重なり、会場は混乱の渦と化していた。
我先にと逃げ惑う生徒達、治癒が完了した選手二人も目の前で起きた出来事を理解してかしないか転げるように何度もつまずきながらも逃げていった。
先程まであれだけ盛り上がっていた会場は一瞬のうち静まり返り、軽く1,000は越えていた人間は今、椋、懋、真琴、新田、そして不気味なローブ野郎を残して他に誰もいない。
闘技場に常設されているモニターには浮遊ている球形の動体検知カメラが尾裂狐、そしてローブ野郎を映し出している。 奴の顔面をおおっているのは間違いない。《嫉妬》だ。
「お前が…………………」
自然と喉の奥から沸き上がってくる。
ローブ野郎はその場でしばらくキョロキョロと回りを見渡すと、何事もなかったかのようにそのまま再び浮遊し、天井の大穴へと向かい上昇を開始した。
「…………お前が先輩を!!」
あくまで冷静な思考を保ったまま『光輪の加護』を高速で展開させ、左足で踏み込みローブ野郎に向かい跳躍する。光輪を使えば2秒とかからないその距離を一気に詰め握った右拳を構えた。
しかしそれを尾裂狐が遮る。この黒狐に触ればどうなるかなど椋は理解している。自分の腕が飛ぶのだ。握った拳を止め、一度足場を形成しそれに着地する。
やっとというほどの時間は立っていないが、遂にローブ野郎と対面する。
高速回転を維持したまま球状の黒狐は一定軌道を描きローブ野郎の周りを漂っている。そう、まるで対抗試合の蒼龍代表、須山の能力のように。
「お前は何者だ?」
上昇をやめ、椋の前に佇むローブ野郎に向かい問う。
『俺か?俺の名は……そうだな……契約者………エンヴィとでも名乗っておこうか』
「契約者エンヴィ……」
エンヴィと名乗るローブ野郎は仮面を装着している姓か、声にはエコーのようなものがかかり、さらに曇っていて妙に機械的な声に聞こえる。
「お前の目的は?」
『目的?フフッ……愚問だな辻井椋。オマエは、いやオマエだけはその理由を知っているのではないか?』
エンヴィは尾裂狐を引き連れ再び上昇を開始する。
「七罪結晶の回収か………」
もちろんそれ以外に考えられないだろう。
『俺が起こした先の騒動で目標が逃げてしまってな。もうここに用はない、さらばだ辻井椋』
そう言ってこれまでとは比ならないスピードでエンヴィは一気に大穴を抜け彼方へと消えていった。




