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「玄武の2年仲俣と蒼龍の1年磯山か……どっちも初見ね」
真琴がぼそっとつぶやく。彼女は肉弾戦闘というより知略を張り巡らせて戦う人間らしく毎日この賭博にかよって各寮の選手のデータをとっているらしい。かと言って現在のこの学園の生徒数は6万を超えている。全ては無理だろう。
「磯山……」
彼は確か第一寮生。ナチュラルスキルは防御性能強化だった気がする。なにせ同寮の生徒とは基本的に戦闘は行わなかったもんで曖昧な情報しか持っていない。
「何だ椋?知り合いか?」
そんな懋の問いにもちろん普通に答える訳にもいかず、「そんなわけない」と苦笑いで流す。隣のふくよかな料理系男子と栗色のロングの姉御は椋の状況を理解している二人だ。そのため椋が蒼龍の生徒との交流を持っていてもおかしくないと思っているのだろうが、目の前でいつものようにヘラヘラしている茶髪はそんな事情を知らない。故に安心して言葉が放てない。実に困ったものだ。
いっそ話すか?話して楽になろうか……。いや、話せるわけがない……。
確かに今回の一件に周りの人間の理解は必要だ。しかしそれは同時にその周りの人間をこの事件に巻き込むということになる。
仕方なく話した新田、速攻でバレた真琴と大宮は口を揃えて「そんなことを気にするな」的なことを言っていたが、それの方が無理に決まっている。どれも辻井椋という人間を構成する大切な人ばかりなのだから。
「磯山はちょっとだけ噂を聞いたような気もするな……。それにしても仲俣なんて生徒聞いたことないわね……みんなは?」
真琴が話題を無理矢理そらすように懋のOLのウィンドウを凝視しながら問う。
「少なくとも僕は知らないよ。野試合でも見覚えがないな」
新田も一度画面を凝視した後否定の言葉を入れた。もちろん椋だって見たことある訳がない。
「俺も知らないな…懋は…?」
「いんや、オレッちも知らね」
オッズも少しながら磯山のほうが高い。この学園、寮土戦で勝っていれば自然と名は馳せるものである。
「これは磯山にかけるべきか……」
迷う椋がつぶやく。
学園側が指定した一回の賭け金上限は1000円までとされている。まぁもちろん学生の身分でそこまでの大金を賭け事につぎ込む奴はそうそういなく、暗黙の了解というべきか皆上限は500円と決めているのだ。
「微妙なところよね……大穴が待ち受けてるかも……」
「とりあえず行ってみるしかないっしょ!」
ここはひとまずそんな懋の意見を採用し、試合会場に移動することになった。




