罪機崩し2~契約者~ 1
2062年5月27日 所 麒麟第一寮自室 時 午前7時
毎週一回はここに帰ってきているわけだから特別久しぶりと言うわけではないのだが、やはり帰ってきたという実感は素晴らしいものだ。
と言っても次回収先は既に決まっている。白虎の《色欲》だ。
引越し日は6月1日、つまり5日後。
引越し先は蒼龍の時と同じように、各寮対抗試合白虎寮代表選手、金田雅と接触しないため、位置的に離れているという白虎第四寮を選択した。
今日は平日、登校日。さてそんなわけで帰寮時恒例『新田の朝ごはん』の時間である。
おふくろの味未体験な椋にとってのtheおふくろの味なわけで心と体にしみるお味噌汁がなんとも言えない。今時珍しい土鍋を使って米を炊くところなんかとっても憎たらしい。ウマイの一言に尽きるのだ。
「それより聞いたよ辻井君。蒼龍でやらかしたんだって?」
「へっ?なんのこと?」
お味噌汁の豆腐をお椀に落としてしまう。
「いやいや、昨日未確認飛行物体が蒼龍の第一寮を襲撃に来たって学内新聞に載ってたよ?」
新田が一度お箸を置き、OLを起動させ学内新聞の表示されたウィンドウを可視化しこちらに見せてくれる。
トップの見出しを見て驚愕してしまう。
『金色の未確認飛行物体、蒼龍第一女子寮を襲撃!?』
しっかりとその横に写真が添付されており、破壊された第一女子寮と、椋が大久保を助けに行く際の写真だ。
第7寮から飛び出し一時的に滞空していた時の『光輪の加護』3段階の足場がまさに未確認飛行物体のように写りこんでいる。
麒麟寮、特に身近な人ならそれが椋だということに気がつけたことだろう。
はぁー、と大きくため息をつき、念の為に弁解をしておく。
「確かにその未確認飛行物体は俺だけど、襲撃したのは違う人間だよ」
「というと?」
「多分2日前に校舎棟で教師が襲撃される事件があったでしょ?」
新田がウィンドウを自分の方に向け直し、再び操作、昨日の学内新聞の見出しを確認し、再びこちらに向ける。
「教師か…そういえば名前は公開されてないんだね…。噂くらいにしか聞いてなかったけど、この事件と同一犯なのかい?」
「うん、薗前っていう先生らしい。その先生が《嫉妬》の所持者だったみたいで、《強欲》の所持者だったそいつが襲撃して回収していったみたいなんだ」
新田がOLの電源を切り、再び箸を手に取る。
「まぁとりあえず、今は………」
と行儀悪く、その箸を部屋の入り口へ向ける。
まるでタイミングを合わせたかのようにドアノブが回り扉が開く。
ドンドンッと大きな足音を立てて不法侵入をしてきたのは真っ直ぐな栗色のロングヘア、柊真琴である。
「彼女をどうにかしたほうがいいよね」
と新田は苦笑いでそういったのだった。




