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冷静に考えろ。
解る筈だ。黒崎は犯人ではない。
奴はもう七罪結晶を所持していないではないか。
大久保の残した言葉を繋ぎ、紡ぐ。
認めたくはない事実しか浮かび上がってこない。
ここにきて《強欲》の『尾裂狐』を操作し、なおかつ仮面型の七罪結晶、コードネーム《嫉妬》を所持している人間はほぼ、いや確実に麒麟寮の人間という事になる。青山から聞いた昨晩の教師襲撃事件の犯人でもあるそいつが、自らの手で七罪結晶を回収している。
本当に認めたくはない。しかしそれは揺るがないといってもいいだろう。
完全に気絶しだらんとしている大久保をもう一度背負い直し再び歩く。目立った外傷もないため、第一寮に帰そうかとも思ったが、やはり少し心配が残るため、病院まで連れて行く。
(いったい誰が……)
そんなことを考えていてもわからないなんて言うことは百も承知である。
受け入れがたいがそんな非道なことをする人間だ。そんなやつが今も麒麟寮の中を…………。
(あれ?)
なんで麒麟寮の生徒が蒼龍寮に侵入できるんだ…?
そんな疑問が頭の奥から浮かんでくる。物理的に不可能なはずだ。実際侵入する方法が存在しないわけではない。しかしそれは不可能といってもいい方法なのだ。
一つ、侵入したい寮の生徒のOLを借りる、ないし奪う事だ。
これは戦闘外で行わなければならない上に、生徒間の仲が悪い寮同士そんなことをする人間は皆無と言って良い。かといって強引に奪う事は校則どころか法律に反する事になるだろう。
もう一つ、これは現在椋にしか行えない行為だ。今椋が装備している灰のOL、つまりは特殊権限を持ったOLを使う方法だ。しかしこのOLの管理は麒麟寮、辻井椋の部屋の住人、Ⅸと新田が行っている。関係ない人物がそう簡単に奪えるようなものではない。
この二つだけなのだ。
この二つしか他寮に侵入する方法は存在しないはずなのだ。
他寮の生徒が無理に侵入すると、寮の入り口地点で撥ねられるうえに、侵入先の寮の入寮履歴にその人物が記録されてしまう。
上空からの侵入もまた同じだと聞いたことがある。
(じゃあどんな方法を使ったんだ……)
犯人しか知らない答えをヒントなしに探そうとしても見つかるわけがない。
形のない答えを見つけ出せないまま、病院にたどり着き、彼女を医者に預ける。
スタッフにいろいろと驚かれたものの、色々と状況を説明し、何とか説得に成功した。
医者の様子から、やはり大久保にこれといった異常がなかっやという事が察知でき、一安心する。




