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いや、予想通り過ぎるのだが、街中のクレープ屋の前で堂々と女先輩を泣かせている後輩というのは周りからどんな感じに映るだろうか?
第三者側から見れば相当な修羅場もしくは相当な馬鹿どもだろう。
「すいません……ごめんなさい……謝ります……買ったの俺だけど……申し訳ないと思ってます……はい……」
超がつくほどの棒読みで心のこもらない謝罪を述べる。いや、彼女の目的は今のところ一切見えないが、クレープを味わう間も無く全部口に突っ込んだのは彼女なのだから謝る義理はないというものだろう。
「グズッ……どうしてくれんねや……ウチのクレープ………グズッ…」
嘘泣きか本当に涙を流していたかはわからないが、一応目尻に涙を貯めた大久保が椋のお腹をポコポコと叩いてくる。
「どこの当たり屋ですか……。で、何をさせたいんですか?」
「グズッ……聞いてくれんのか?」
涙を貯めたその瞳が上目遣いで尚光る。可愛いのは可愛いのだが、状況が状況なのだからそんなこと思っていられない。
「聞いてくれるじゃなくて聞けの間違いじゃないんですか?」
皮肉った表情でそんなことを言うと、彼女の顔が一気に明るくなり、涙をはじき飛ばす。
「ほんまか聞いてくれるんか!!聞いてくれるんやな!!そりゃよかったで!!」
「先輩……声大きいです」
これでは当たり屋どころか一部を除いたタチの悪いヤクザみたいである。しかしこれを第三者視点で見ると、悪いのは確実に椋なのだろう。だから反論する気も起きないし、もうどうにでもなれ状態である。
「うちな!ひとつだけお願いがあるんや!!」
「なんでしょう……」
もう諦めた椋は素直に彼女のその命令……ゲフンッゲフンッ。お願いを聞き届ける。
「君の連絡先を教えて欲しいんやわ!!」
「たかる気ですか?それならあいにく僕は先程のクレープで全財産を失いましたよ?」
「ちゃうがな……伍莉君、君は乙女心っちゅうもんがひとつもわかっとらんなぁ……」
ため息をつきながらいきなり乙女心の話をされ少々戸惑ってしまう。
今の会話のどこにオトメゴコロを察しろという文脈があったのだろうか?いや待て辻井椋!それが理解できていないからそう言われたんではないだろうか?
瞬間脳内論争が終わり、絞り出した答えは一言。
「ごめんなさい……」




