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いやしかし、彼女の情報通りとでも言おうか、これがなかなか美味しそうなのだ。
クレープ生地は普通の厚さの生地と極薄でパリパリに焼いた生地の二枚重ねになっており、サクサク感をともに楽しめるようになっている。
どんな食べ物でも誰かが独占しそれを食べているものをずっと見ていると、それを欲しくなる。それが人間という生き物だ。
椋の目線は自然にクレープを追い続けていた。
「なんや伍莉君、ほしいんか?」
にやっと悪そうな顔を浮かべる大久保。否定できない。
「そんなことありませんよ……。さっきあれだけパスタ食べたんですから僕のお腹の容量はマックスです」
無表情で何らかの行為を仕掛け用としていると思われる大久保の問を返す。
「そないかぁ……」
「そないです」
うんうんと首を何度も縦に振り自分を無理やり納得させる。
別に欲しくなんてないんだからな!!いや………欲しくなんて……。
「残念やなぁ……。あげようと思ってたんやけど……」
何度もちらっとこちらを見ながら、何かを待っているかのようにそわそわしている。
何かというよりはこちらのおねだり交渉なのだろうが。
そんな安易な手に引っかかるほど頭は悪くない!!
再びしばらくの沈黙が訪れる。彼女は変わらずこちらをチラ見。
一概に彼女を面倒者扱いするのはどうかと思うし、なにより先程彼女はパスタ屋で助けてくれたという恩が残っている。
流石に放置はまずいだろう。そう思った椋は仕方なく、まさに渋々といった様子で答える。
「あーはい。すっごく食べたいです……」
あからさまな棒読み。やる気どころか生気さえも感じられない機械的な発言ではあったが、大久保はそれに大いに引っかかる。
「ほんまか?ほんまやねんな?よっしゃ!!食い食い!!」
そう言って彼女は残りのクレープ約3分の1くらいの量を無理やり椋の口に詰め込み、その顎を閉じさせる。
何がしたいんだこの人は……。
必死に鼻腔で呼吸をしながらどうしたものかと考える。喉の奥から先程の巨城の残骸が押し寄せてくる。流石に女性の前で残骸をぶちまけるのはどうだろうか……。
気が引けるため残骸を無理やり胃の中に戻し、同時にクレープもほとんど味わうことなく胃の奥に押し込める。
彼女の目的を問い詰めようと必死で口の中身を空っぽにして、彼女に問う。
「一体なに……」
「伍莉君が………伍莉君がウチのクレープ全部食ったぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
そんな椋の声を遮り大久保がわざとらしく騒ぎはじめた。




