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目を見開き、口を限界まで開放しているのにも気づかずにその光景を眺めていた椋。考えられないほどのスピードだったことは認める。二刀流というのもなかなか見られるもんじゃない。
そんな椋のとなりで同じようにあんぐりと顎が外れたように驚いているゴリマッチョな店長。その一瞬を見逃さなかったが、瞬きと同時に先程の寡黙なゴリマッチョに戻っていた。
「さすが王者……、と言ったところか……」
店長の渋い声と共にいつの間にか群がっていた観衆が盛大に湧く。
「チャンプ?先輩が?」
店長の冷静な発言に思わず驚きを隠せない。
「チャンプやなんてやめてぇな!褒めても何もでんで!」
嬉しいのか恥ずかしいのか、それともミートソースか、頬を染めながらそんなことを言っているが、変わらず冷静に店長は続ける。
「いや、嬢ちゃん。あんたは王者の名にふさわしいよ……。流石に3分は大人気ないとも思ったんだが昨日と続けて完食とは……」
「だってここのパスタ美味しいんやもん!この店ちゃうかったら絶対こんな量くえんで!」
そんな発言に冷静なゴリマッチョ店長が踵を返し、
「賞金とってきてやるから少し待ってな」
そう言って観客の間を縫いそのままレジの方に歩いていく。その表情が柔らかくなっていたことは言うまでもない。
しかし驚きだ。店長の発言からしてこの大久保小崋という2年生、昨日もここに来店してこの2kgのパスタを完食したということになる。こう毎日こられては店の経営が成り立たなくなるんではないだろうかという若干の恐怖さえ与えてくる。のだが、ゴリマッチョな店長はそんな彼女の存在が喜ばしいらしく、レジでニヤニヤしながら一万円札を取り出している。
「その………ありがとうございました!すっごく助かりました……」
「いやいや、かまへんかまへん。ウチだってちょっと小腹がすいとってな」
「小腹って……」
そんな冗談か本気かわからない話に苦笑いを浮かべ、もう一度頭を下げる。
秀斗に見捨てられどうしようもない状況に置ける彼女の登場はまさに奇跡としか言い様がないだろう。
感謝してもしきれない分、商品代以外の賞金をすべて大久保に渡そうとする。
「先輩……受け取ってください!」
そう言って残り8000円を大久保の前にすっと置くが彼女はそれを断る。
「ウチは賞金稼ぎのためにこの店来とんちゃうんや。ホンマにうまい料理を食べに来たんやから賞金なんて受け取らん」
普通こういう時は受け取るもんじゃないのかと少々疑問に思うがそういうものなのかと疑問を頭に浮かべた。




