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はてさて、日は同じくしてときは進み12時半。
ニット帽の少年、椋は目の前のありえない量のミートスパゲッティに目を回していた。
(うっ……こんなの食えるわけねぇ……)
椋が食しているのは特盛2㎏パスタ。完食できたら一万円という今のところ蒼龍にしか存在しない[Pieno stomaco]という巷では超人気イタリアンのお店だ。ちなみに伊語で満腹という意味らしい。
そんないかにも日本風な大盛り文化がイタリアンと融合してそれはもうえげつない事になっていた。味には一切の文句のつけようがない、完璧だ。店長のオリジナルパスタとして、日本では一般的なスパゲッティーニではなく、少し太めのスパゲッティが採用されているこもあってかボリューミーでまだ三分の一と食していないのに腹の中はまさに満腹を迎えようとしていた。
ちなみにこのチャレンジ一回2000円。さらにちなみに少年の財布の中身は311円。食べきらなければならない戦いがここにはあるのだ。
少年は愚かなことにいけると思ったのだ。2キロなんて……そんな甘い気持ちでこの戦場に趣いたのだ。
隣には店長と思しきスキンヘッドのゴリマッチョ。少しでもフォークを置こうものなら今にでもその鉄拳が後頭部目指して飛んできそうな雰囲気を漂わし、仕事そっちのけで椋の横につきっきりである。
「貞男!諦めな!お前にそんな量くえるわけないだろ!」
そう横槍を入れてくるのはこの店のアルバイト、惣流第七寮一年馳葺秀斗。同じ寮生、長瀬雄輔の相部屋の生徒だ。厨房内でフライパンを駆使しながら余裕を持ってこちらに語りかけてくる。
「うるさい秀斗!俺は死んでも食い切ってやるからな!」
「はいはい……。ちなみに制限時間1時間だからな、残り時間20分切ってるぞ!」
忠告を飛ばしてくれる親友を横目にミートスパゲッティと真剣に向き合う。まだ城のようにそびえ立つこのパスタを20分で完食しろだ?無理に決まってる……。
そろそろ腹をくくらなければならないのだろうか……。胃の中では城の一部が食道い向かってせめぎ合い、今にも溢れだそうとしているというのにこんな絶対おかしいよ!
などと言ってられない。いや、本当にまずい。
「フフッ……フハハっ……ハハハハハハハァハッハッハッ!!」
絶望感から現れたその高笑いとともに何か色々こみ上げて来るのだった。




