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結局自分でカメラを呼ぶことは怖くて出来なかったのだが、とりあえず青山に部屋の人間が誰かを特定してもらうために部屋番号をメールで送信する。
(《暴食》は時間の問題だな……)
そう思うと少しこの寮への愛着というかなんというか、離れたくないような麒麟寮に戻りたいような。微妙な心境である。
『そう甘いものではないと思うがな……』
と不意にフールがつぶやく。この一件では彼にも色々迷惑をかけている、そして彼のせいでいろいろとうまくいかない部分もあった。
先月の話し合いの二日後4月18日引越しが完了し、黒崎との戦いで眠っていたフールが目覚め、七罪結晶回収の話をしたところ、『一度そっちに呼び出してくれないか?』と言われ実行、『移り気な旅人』により現出されたフールはえらくご立腹だったようでそれはもうボコボコにされてしまったのはいい思い出だ。
彼曰く、『《魔術師》の回収はもっと後でよっかった、今こんなことに命をかけるんじゃない!!』とのことでそれはもうこっぴどく叱られてしまった。
まあ《強欲》の復活の件、それが麒麟第一寮に落ちている可能性があると話したところ渋々納得してくれたのだった。
さてフールのせいでうまくいかない部分。これは仕方ないというか何とも言えない、彼自身に責任はないのだ。
異例はあるもののエレメントホルダーの特徴として、他のエレメントホルダーを認識することができる点がある。
麒麟寮に存在するエレメントホルダーは自分を含めて3人。第一寮3年大宮亜実と、接触したことはないが1年釉上野花だ。
Ⅸの能力では中の《愚者》までは再現できないのだ。というわけで大宮には移動した初日に速攻でバレた。アレは盲点だった……うん。仕方がない。
各寮対抗試合の後、4月19日。約束通り、負の《月》ヘカテから《愚者》の力の一部を回収するために大宮のところを訪れたのだが、案内された大宮の部屋で、その件について問い詰められたのだった。顎のあたりを人差し指でつつきながら「おかしいなぁ……おかしいなぁ……」と連呼する大宮は実にキュートだったが、自分の脳は混乱でショートしそうだったのを覚えている。




