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2062年 5月26日 所 蒼龍第七寮 時 午前7時30分
無駄に大きなアラームの音が、今日も椋を夢の中からこの現実へと連れ戻す。
この生活にも慣れと言うものを覚え始めた。勿論短期間で終わるなんてことは考えていなかったが、まさか1つ目の回収に一ヶ月以上もの時間を費やすとは思っても見なかった。
そもそもなんでここから調査を始めたかということから説明を始めなければならないだろう。
4月16日、ⅤとⅨ、新田と一緒に行った階段が終了する間際、OLに一本の連絡が入ったのだ。
[蒼龍にてコードネーム『暴食』を確認]
ただそれだけの内容だったが、階段の最後、目的地を決める段階でそんなメールが来たもんだから必然的にそっちに向かうことになったのだ。
一週間に一度麒麟寮に戻りⅨの『仮面舞踏』を受け、身代わりになってもらっている現状、いい加減に麒麟寮でみんなとの生活を楽しみたいとも思い始めた今日この頃である。
一応こちらでの名義は『辻井椋』ではなく、『伍莉貞』を名乗っている。単純な名前のアナグラムだが、本名は入寮祭で学園全土に割れてしまっている為使えないので偽名を用意したのだ。
もしものことを考えて同室の人間はおらず、拾い二人部屋をひとりで使っている。そんな広い部屋で洗面所の鏡の前に立ち、寝癖やら何やらを整えた後に自らの頭に黒いニット帽をかぶり、メガネをかけるという些か単純な変装をする。
最初からこの姿で通しているため、誰にも突っ込まれることはなく、蒼龍寮にとって伍莉貞はこのニットメガネキャラで通っている。
この寮、蒼龍第七寮に越してきてから始まった新しい生活。周囲にまったくといっていいほど知人が存在しない中の暮らしだったが一ヶ月たてば知人と言うのも増えるものだ。今ではこちらである程度友人というものができてきた。
鏡を確認し、おそらくバレないであろうと言う確信を持ったと所で、部屋のドアが二度ほどノックされる。
「伍莉君、起きてるかい?」
そう言ってドアノブを回し入ってきたのは第七寮寮監、青山雪人氏だ。彼は今回の一件を知らされているため、一応こちらでのパートナー的存在である。
「おはようございます青山さん……ってどうしたんですか!?」
入ってきた高身長の、教師というよりはお兄さん。何もしていなくてもイケメンな青山が日頃とは違い血相を変えたような様子で椋の両肩を掴み揺らす。
「聞いてくれ!先日夜、校舎棟にて教師が襲われるという事件が起きた……そこで同時に『嫉妬』と『強欲』の反応が出たそうだ……」




