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小柄な少年はそのまま椋の目の前なで来て胸ぐらをつかみあげる。
こんな小さな少年が出せるような力ではない。簡単に椋の体を持ち上げなおかつ余裕というより、怒りの感情が全身を包んでいるといった様子だった。
「あんたら幸せな人間にはわかんねぇよ!!この傷の痛みが!!親が付けた名前なんて必要ねぇんだよ……」
「おいⅨ!そのくらいにしておけ!!」
Ⅴなる少年の一言により、小柄な少年Ⅸは地面に唾を吐きつけるような舌打ちをしながら椋を突き放し、地面に落ちたローブを拾い、再びその身に纏う。
「失礼しました辻井様。でもお忘れなく。我々にもそれぞれ事情があってこの身分に就いています。軽率な発言はお控え願いたい」
そういうVの言葉は純粋に力を持っているようで、ただ一言、「ごめんなさい」という謝罪の言葉さえも喉から出てこない始末であった。
「まぁ……僕に特別な事情はわからないけど……とりあえずお茶でも飲みますか?」
そんな空気を読んでいるんか読んでいないのかわからない新田の発言に椋が少し救われたことは言うまでもない。
○~○~○~○
お茶をすすりながら4人の対話は続いた。Ⅸは時に怒りの表情を見せながらも、使命感かそれを抑え今回の話にしっかりと応じてくれた。
決まったことは幾つかあった。
1つ、身代わりは彼、Ⅸの能力『仮面舞踏』によって彼自身が椋になりすまし学園生活を送るということ
2つ、新田は可能な限りのフォローに回るということ
3つ、もしも契にバレてしまった場合は学園側によって契、含めその周囲の人間の記憶を消し去るということ
ほかにも細かいものが沢山有るのだが大きい決まり事はそれくらいだ。
ちなみにⅨの能力『仮面舞踏』は7日間対象の人物の身長、体重、顔、髪の長さ、声帯、人格、何もかもをコピーするというものらしい。記憶と能力のコピーだけはできないらしく、そこのフォローを新田にしてもらうという寸法なわけだ。
本当はもっと自分のことを知っていてフォローに回りやすい人物を選びたかったのだが、生憎友達というものが少ない。 これが今のところの最善の手段だと考えている。
ここから先は天任せだ。何がどうなるか誰にも予想などできない。
フールの意向は一切聞いていないが、彼もこれに賛同してくれるだろうと信じている。
この日が出発点になるのだ。
学園全土を回り七罪結晶を回収するための盛大な旅の。
そして恐らくこれから始まるであろう長い長い戦いの。
第2章 学生たちの楽園 終




