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両者の距離が一瞬にして縮まる。
先に仕掛けたのは小林の方であった。
両手を前に突出し、2本の鋭利なナイフの切先をこちらに向け突進してくる。
相手の動きに迷いのようなモノが一切見えない。向こうも殺す気でこっちに向かってきている。
が、さすがにそんな単調な攻撃が当たるわけがない。
重心を右に移動させながらしゃがみ、2本のナイフの切先から逃れる。
このやり取りがかなりの速度で行われているのだから、冷や汗が止まらない。
両者がすれ違い、再び少し距離が開く。4、5メートルといったところだろうか。
だが椋はこの時気が付いていなかった。すれ違いざまに小林が不敵な笑みを浮かべていることに。
確実に一発で倒さなければならない。そう確信した。
この間合いなら、相手の攻撃は届かないはずだ。しばらくこの間合いを保ち、策を練るのが得策と考え、相手の動きに合わせて、この4,5メートルといった間合いを保つ。
しかし、そんなことに意味がないという事をすぐに思い知ることになる。
椋の全身に戦慄が走る。
小林が後ろに跳び、右手に握っていたサバイバルナイフを投げたのだ。
まっすぐ椋の眉間に向かって飛んでくる一本の短刀。この距離で、このスピード、完全にはよけられない。
覚悟を決め、というよりほぼ反射的に、左手を構えてしまう。
あの短刀は誰がどう見ても刺さりにくい形状をしている。しかしこれだけ勢いがあれば、そんなことはあまり関係ないのかもしれない。
左手が熱い。刺さった短刀は小林が椋との距離を少し広げると、自然に消滅してしまった。
どうやら、小林自身とある程度距離が離れたら消滅してしまうようだ。
再び、小林が短刀を出現させる。
動脈に損傷はないようだが、それでもかなり出血している。
左手が使えない、これはかなりまずい。自分の不利な状況がさらに酷くなってしまった。
自分は右手しか使うことができない。
相手は、2本の短刀を使った近接格闘。その短刀を投げることで中距離攻撃ができる。
しかも相手のナイフは一定距離はなれたら消滅し、再び相手の所に戻る。
球数が無限に等しいなんてのは、不利というより、もう理不尽だ。
痛いという感覚が、どんどん痺れるという感覚に代わっていく。
(頼みがある。)
と、椋は頭の中で念じる。
『なんだ?』
(もうリミッターははずさなくてもいい。その代わりというか…左手の光輪を右手に移動させてほしい。)
すぐさま帰ってきた声に、願う。
『ギアを上げる程とは言わないが、少なからずオマエの体に負担がかかるぞ?』
(構わない。やってくれ。)
『了解した。』
声の主がそう言うと、左手の光輪が消えてなくなり、右手の光輪が2つに増える。
使えないままほおっておくよりかは幾分かましだ。 とだらんと下がった左手を見る。
その時、右手が一瞬悲鳴を上げているかのように痛んだ。
しかし気にしている場合ではない。




