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「そもそもなんで校長は動かないんですか?《魔術師》の力があれば余裕なんじゃ?」
不意に思った質問を口に出す。まあこんな誰にでも思いつく安直な意見を述べたところで反論されるのは覚悟していた。
「先程ああは言ったが、私も結構多忙でな。この学園のフィールドの制御を行っている限り戦闘は行えないのだ、それに本気で行けばこの学園を壊しかねんからな」
まあ確かにフィールドが展開されていない中この巨漢老人があばれまわればここら一帯が地獄絵図になりそうだ。
表情を変えずにそんなことを言うもんだから笑うしかない。引き気味に笑いながら次の質問をする。
「退学をちらつかせて返却を願うとかできないんですか?」
「それは難しいな。理由が理由なのもあるが、七罪結晶の厄介さはその依存性にある」
「と、言うと?」
「感情を食うというのは知っているな?」
「はい……ピンと来ないですけどなんとなくは……」
そこらへんは黒崎との試合中に山根に軽く教えてもらった。
『強欲』はその者の欲求を喰らう。黒崎の場合は、戦いたいという欲求、そして殺したいという欲求だったとかどうとか……。
その欲求も一時的になくなるだけであったすぐに回復する。つまりは永久機関なのだ。
「例えば少年、君が猛烈な尿意を催したとする」
「いっ、いきなり何ですか!?」
「まあ最後まで聞け!もしそんな君が、爆発寸前の状態でなんとか便所にたどり着き、それを放ったとする。君はどう感じる?」
答えたくねー。と思いつつもその突拍子もない質問の答えを実体験を踏まえて考える。
「そりゃ、もうすごい達成感というか、快いくらいの開放感ですよね」
「そうだろう?普通の人間ならそう感じるはずだ。七罪結晶ではそれが常に起こっているのだ。しかもそんな尿意とかでは比べ物にならないようなものがだ」
「?」
疑問符しか浮かばない頭で回答を導こうとしても出てこないものは出てこない。素直に村本に頼る。
「簡単に言えばアレはストレスを食うのだ。そのストレスから解放されたものは快楽や達成感といったモノい包まれる。しかしストレスは根本的な部分で解決していない。故にストレスは再び沸く。だからもう一度開放感を求め七罪結晶を使う。その永遠のループが起きてしまい、本人はもう結晶を手放したくなくなる。麻薬より質が悪い代物なのだよ」




